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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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この記事のフォーカス・イシュー

教育・伝承

学びの再デザイン

2015.12.31


ネットワーク化された社会で重要性を増す「つながり」のデザイン

「19世紀の外科医が現在の手術室にやって来ても何一つ仕事ができないだろう。だが、19世紀の教師がやって来たら、きっと何とかやっていけるだろう。教授法はこの150年で変化していないからだ。」MITメディアラボのシーモア・パパート教授の言葉だ。

その状況は日本においても変わらない。農耕社会から工業社会に切り替わるに当たり、明治政府は義務教育を導入した。寺子屋から一斉授業を行う学校へ。急速に工業社会へと向かう日本には教育システムの転換もまた必然だった。そして、工業社会から情報社会・知識社会へと切り替わる今、改めて教育の再デザインが求められている。

今回のグッドデザイン賞では、そうした社会的欲求に応える新たな学びの提案とも捉えられるデザインが多々見られた。具体的には「学びの内容」、「学びの方法」、「学びの環境」の3点に関わるデザインであったように思える。

「学びの内容」

「科学する心」や「自分で考える力」を育むテレビ番組「ミミクリーズ」や、特別な知識がなくても誰もが簡単にデジタルものづくりを学べるスマートDIYプラットホーム「MESH」などは、これまでの学校教育の中で重きを置かれてきた記憶・暗記ではなく、「思考」や「創造」を重視した学びへの提案と言えよう。

「学びの方法」

学びの内容が変われば、それに伴い「学びの方法」の変化も求められる。これまでのように1人の先生が一方的に複数人に知識を伝達するスタイルではなく、みんなが知識や経験を持ち寄り、教え合い学び合い、共同で新しい価値を生み出す双方向の学びのスタイルが必要とされる。そのような学びをデザインする人材のニーズが高まり、学習プログラム「ワークショップデザイナー育成プログラム」が生まれ、浸透しているのであろう。

「学びの環境」

学校や家庭に依存するのではなく、地域一帯となって学びの場をつくることが求められている。「石巻・川の上プロジェクト」や「シェアビレッジ」にはそのヒントが散りばめられていた。そして地域での学びが結果として、地域の文化の伝承にもつながっている点にも着目したい。

また、新たな学びの環境において大切なことは多様性を尊重すること。福祉施設「福祉創造塾ふれあいの部屋」は、障害のある方が子どもたちの先生になるということをひとつのきっかけに、その場に関わる地域の多様な人材があたたかいひとつの家族のようなつながりを生み出し、学びの場をデザインしている。これぞインクルーシブ教育だと思わされる。

ICTの普及が社会を大きく変え、これからを生きるに当って求められる力に変化を起こし、学びの内容・方法・環境の変化を余儀なくさせた。その一方で、ICTがその変化を可能とする。それを示すデザインが学習サービス「勉強サプリ」、iphone アプリ「ハイブリッド黒板アプリ「Kocri(コクリ)」であった。ICTの力を活用し、上述のような、思考・創造型の学びを、協働の学びを、学校家庭地域をつなぐ学びを実現していく。さらには地理的・経済的理由によらず、全ての子どもたちに最高の学びに触れる機会を提供していく。150年変わらなかった学びをどう変えていくのか。デザインの力に期待する。

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石戸 奈々子

デジタルえほん作家 |NPO法人CANVAS 理事長、株式会社デジタルえほん 代表、慶應義塾大学 准教授

東京大学工学部卒業後、MITメディアラボ客員研究員を経て、子ども向け創造・表現活動を推進する NPO「CANVAS」を設立。実行委員長を務める子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人の子どもたちを動員。その後、株式会社デジタルえほんを立ち上げ、えほんアプリを制作中。総務省情報通信審議会委員などを兼務。著書に『子どもの創造力スイッチ!遊びと学びのひみつ基地 CANVASの実践』、『デジタル教育宣言』など。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時