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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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2024年度フォーカス・イシュー

「2024年度フォーカス・イシュー」を考える

はじめの一歩から ひろがるデザイン:フォーカス・イシュー テーマ決定

2024.11.01

「デザインのシンクタンク」というビジョンを掲げ、受賞作の背景にあるデザインの“うねり”を捉え、年度ごとの「テーマ」に据えるグッドデザイン賞フォーカス・イシュー。2024年度、一連の審査プロセスを経て定めたテーマが「はじめの一歩から ひろがるデザイン」だ。この言葉の背景に込められた意図とは?


グッドデザイン賞の重要な役割の一つに、次なる社会に向けた可能性や課題の発見がある。フォーカス・イシューはこの役割を担うために生まれた、デザインがいま向き合うべき重要な問いを深めることに特化した取り組みだ。

フォーカス・イシューでは、毎年起こるデザインの“うねり”をとらえ、分析している。応募対象を観察しながら、審査が終わった後に、総括としてテーマを抽出。これからの社会における可能性やデザインの役割と意義について思索を重ね、提言として発表する。

そして審査プロセスを経て、2024年度のテーマとして掲げられたのは、「はじめの一歩から ひろがるデザイン」だ。

フォーカス・イシューを担当するチームは、フォーカス・イシュー・ディレクターとして正副委員長の3名、そしてフォーカス・イシュー・リサーチャー3名の計6名。6月の一次審査を皮切りに数ヶ月にわたり進行した審査プロセスの中で、通常の審査プロセスとは別に、すべての審査対象を各々の専門性や切り口から見つめ、“うねり”を探ってきた。

本記事では、6名の議論を踏まえ、本テーマの背景に込められた意図をより詳細に紹介する。

「はじめの一歩から」──思考や活動の“源流”に光を当てる

2023年度グッドデザイン賞のテーマ「アウトカムのあるデザイン」は、デザインの“結果”にフォーカスを当てるものだった。

さらに2023年度のフォーカス・イシューのテーマであり、2024年度グッドデザイン賞のテーマでもある「勇気と有機のあるデザイン」は、“結果”に至る一段階前の“思考”や“活動”に着目するものだった。

そして2024年度のフォーカス・イシューのテーマでは、“思考”や“活動”のさらに前段階の“源流”に光を当てたい──そんな思いから設定されたのが「はじめの一歩から ひろがるデザイン」だ。

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審査委員長 齋藤 精一による概念図

マーケット主導で「大きなニーズがあるから」ではなく、組織や地域の中の小さな個人の熱量に突き動かされた「はじめの一歩」から、社会を大きく変革するデザインが生まれていく。

2024年度グッドデザイン賞の受賞作には、そんな最小規模の兆しから始まるデザイン──内なる衝動に突き動かされ、「自分」を主語に、自分の言葉で背景やプロセス開発秘話をナラティブとして語っているデザインが目立った。

こうした同時多発的な動きをうねりとして可視化し、来年度以降により一層増やしていくために「はじめの一歩」という言葉が掲げられたのだ。

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(左から)2024年度グッドデザイン賞 審査副委員長 倉本 仁、審査副委員長 永山 祐子、審査委員長 齋藤 精一

https://www.g-mark.org/gallery/winners/24820 https://www.g-mark.org/gallery/winners/21058 https://www.g-mark.org/gallery/winners/27473

「ひろがる」──巻き込まれ、大きな変革へと育つ

「はじめの一歩」は小さな一歩だ。

しかし、たとえ取り組みとしての規模がどんなに小さくても、その類稀な熱量に、周囲の人々は絆(ほだ)され、巻き込まれていく。

その取り組みに直接加わる、あるいは背後から支えるというかたちで、一体となって小さな一歩を大きな変化へと育てていく。

そんな熱量の伝播、巻き込み力に着目して、「ひろがる」というフレーズもかけ合わせた。

自分ごとから会社ごとへ、会社ごとから社会ごとへ。

「はじめの一歩」には絶大な労力がかかるが、マーケット主導のデザインには持ち得ない、大きな力を秘めている。

「はじめの一歩」で終わる、ましてや“出る杭”を打つのではなく、最終的には大きな変容につながっていく──そうしたダイナミズムが、より多くの組織や地域でいっそう広がっていくはずだ。

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(左から)2024年度グッドデザイン賞 フォーカス・イシュー・リサーチャー 林 亜季、太田 直樹、中村 寛

https://www.g-mark.org/gallery/winners/24555 https://www.g-mark.org/gallery/winners/22683 https://www.g-mark.org/gallery/winners/25806

「勇気と有機のあるデザイン」が生み出されるプロセスに対するこうした理解・分析そして展望が、2024年度に定めたテーマ「はじめの一歩から ひろがるデザイン」の背景にはあった。

今後6名が具体的なアクションを提案するレポートも発表する。

「新しく起こった“うねり”を次の日、次の年へとしっかりつないでいく。それこそが、これからのグッドデザイン賞、日本デザイン振興会に求められる役割なのではないか」──2025年に公開予定のレポートにも、ぜひ期待していてほしい。

今井駿介

フォトグラファー

1993年、新潟県南魚沼市生まれ。(株)アマナを経て独立。


小池真幸

エディター

編集者。複数媒体にて、主に研究者やクリエイターらと協働しながら企画・編集。