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「よいデザイン」がつくられた 現場へ

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よいデザインが生まれた現場から、 次のデザインへのヒントを探るインタビュー

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今回のお訪ね先

株式会社江北ゴム製作所

「黒いゴム」から、可能性をつくる(後編)

2026.11.6

卵殻や茶、海苔、木、石、鉄。これまでゴムとは結びつかなかった素材を取り込み、新しい表情を生み出す「Rebbur(リバー)」。その背景にあるのは、江北ゴム製作所が長年培ってきた「配合」の技術だ。では、そもそもゴムはどのようにつくられているのだろう。工場を歩いてみると、熱を加え、化学反応させ、成形するという、プラスチックとは異なるものづくりが見えてきた。前編に続き、代表取締役社長の菅原健太さんとデザイナーの土井智喜さんに、ゴムという素材の特性、Rebburが開いた新しい出会い、そして江北ゴム製作所が目指すこれからについて聞いた。

前編はこちら


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デザイナーの土井智喜さんがデザインした「Rebbur」のリーフレット。表紙には2025年度グッドデザイン賞の受賞が記されている。

正しいルートから、脇にそれてみる

- 前編では、用途に合わせてゴムを配合し、材料から製品までつくれることが江北ゴム製作所の強みだと伺いました。実際の工場では、どのようにゴム製品をつくっているのでしょうか。

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Rebburの開発以降も、継続して協働する菅原健太さん(左)と土井さん。

菅原健太(江北ゴム製作所 代表取締役社長) ゴムは、熱を加えて化学反応させてつくります。金型を160度、170度くらいまで熱して、その中に材料を仕込み、プレスして反応させる。一般的なプラスチックは「熱可塑性」といって、熱で溶かして、冷やして固めます。だから何秒という単位で、次々につくることができます。それに対してゴムは、熱を加えて材料を化学反応させていくので、何分、ものによっては何十分とかかります。

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配合した材料をロール機で練り、ゴムをつくっていく工程。

- 実際に工場を見せていただきましたが、かなり暑いですね。

菅原 暑いですよ。特に夏は大変です。金型自体がそれだけの温度になりますから、その暑いなかで、みんな頑張って仕事をしています。

- 樹脂とは、成形の仕方にも違いがありますか。

土井智喜(soell 株式会社 代表取締役、デザイナー) ありますね。樹脂を金型で成形するときには、型から抜くための勾配が必要になるものでも、ゴムだったら勾配がなくても抜けることがあるんです。ゴムは変形しますから。

ここでも空気を入れながら抜いたりされています。そういうゴムだからできる形や、ゴムだから抑えられるコストもあるんだろうなと思います。

- ゴムが変形するからできることなんですね。そもそも、ゴムならではの特性とは何でしょう。

菅原 難しいですね。ゴムとはなんぞや(笑)。簡単に言うと、伸びるんです。伸びて元に戻る。それがゴムですよね。プラスチックは伸びないですから。

例えば、うちでつくっているものではありませんが、ジャンボジェット機のタイヤなんて、ゴムじゃなかったら何でつくるんだという話ですよね。着陸するときにはものすごい衝撃がかかる。鉄ではだめだし、プラスチックなんかでは全然だめ。あれだけの衝撃を受け止めて、摩耗にも耐えなければならない。

そう考えると、ゴムでなければできないことはいくらでもあります。

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高温になる機械が並ぶ工場では、夏場は暑さとの闘いになる。暑さのなかでも、集中して作業を進めるスタッフ。

- Rebburは、そうしたゴムの特性を生かした素材なのでしょうか。

土井 Rebburは異素材を混ぜ込んでいるので、「伸びて元に戻る」というところでは、そこまでゴムの特性を生かしているわけではないんです。ただ、滑りにくいとか、クッション性があるとか、多少雑に扱っても壊れにくい、傷つきにくい。そういったところはゴムのよさだと思います。

でも、Rebburの面白さは別のところにもあると思っています。江北ゴムさんがこれまで培ってきた配合技術は、基本的にはゴムの機能性を高めるためのものです。パッキンや黒いゴム板のような工業用ゴムは、必要な性能をきちんと発揮することがまず求められる。そこには、あまり情緒性がないんですよね。

Rebburでは、その機能性を高めるために培ってきた配合技術を、いわば「正しいルート」とは違う、脇にそれるようなルートで使ってみたらどうなるか、という実験をしている。色だったり、質感だったり、混ぜ込んだものが見えたりすることで、これまでの工業用ゴムとは違う表情が出てくる。そういうことをやっている企業は、なかなかないと思います。

- 技術は同じでも、目指すところを変えてみるということでしょうか。

土井 そうですね。それで、この素材を面白いと思ってくださる企業から「使いたい」という相談もあります。そういう場合は、必ずしも困りごとを解決するということだけではなくて、日常の中にあっても違和感のないゴムというか、これまでとは違うゴムのあり方を考えることになります。

もう一つ、その企業で廃棄されるものを混ぜてRebburにすることもできます。企業から出る廃棄物を、その企業のための素材に変える。そうすると、素材そのものにその会社のストーリーも加わります。自社商品としてどう展開していくかという方向と、ほかの企業に素材として使ってもらう方向。その二つがあるように思います。

異物感は表情になる

- 現在、「Rebbur」の素材としては6種類ありますが、これからさらに種類を増やしていくのでしょうか。

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現在展開している6種類の「Rebbur」の素材。混ぜ込んだ素材そのものが、それぞれ異なる色や質感となって表れる。

土井 増やそうと思えば、10種類、20種類といろいろできると思います。でも、増やしすぎると分散してしまう。これからは逆に少し絞って、相性のいいものをもっと深掘りしたり、それを使ったコラボレーション商品をつくったりする方向がいいのかなと思っています。

- 「何でも混ぜられる」ことを見せる段階から、その先へ進もうとしているのですね。

菅原 例えば卵の殻も、最初は細かく粉砕して混ぜていたんです。そのほうが混ざりやすいし、異物感もなくなりますから。でも、ある程度大きなまま練り込んでみたら、それが表情になることがわかった。赤玉の茶色い殻が混じっていると、それが点々になって見えたりするんです。

- 工業用ゴムなら消そうとする「異物感」を、逆に生かしている。

菅原 そうですね。BtoBでは、高機能、高品質、長寿命化と、ずっと機能性を追い求めてきました。でもRebburでは、そこから少しネジを緩めて、「ちょっと持ちが悪くてもいいんじゃないか」とか、今までの発想を変えてもいいんじゃないかと考えています。ゴムのいいところは残しながら、違う方向へ振ってみる。

海外から届いた反応

- Rebburは海外でも展示されているそうですね。

土井 はい。ミラノデザインウィークで展示したことがありますし、オランダでも素材を展示しています。海外では、こうした廃棄素材を活用する取り組みに興味を持つ方も多いですね。ミラノでRebburを見たドイツの方が、その後、江北ゴムさんの工場まで見学に来られたこともありました。オランダで展示したときにも、問い合わせが結構ありました。

- 展示を見て、わざわざ日本の工場まで来たんですか。

土井 そうなんです。すぐに何か大きく変わるということではないですけど、少しずつ広がっているとか、可能性が増えてきているという実感はあります。そういうところを伸ばしていって、Rebburだけでなく、素材としてのゴムのよさ自体が、もっと世の中に知られるようになればと思っています。海外にもアプローチできるくらいまで広げていけたら、そのお手伝いをしたいですね。

- 土井さん自身は、江北ゴムと取り組む以前からゴムに詳しかったのでしょうか。

土井 全然詳しくなかったですね。単純に、面白そうだと感じたのがきっかけです。ゴムは、みんなが知っている素材であるものの、天然ゴムや合成ゴムについて、踏み込んで考えたことがある人は意外と少ないのではないでしょうか。生活になくてはならないものなのに、知っているようで知らない存在、それがゴムなんです。

だから、そこに新しいゴムのあり方というか、新しい存在の仕方があるんじゃないか、と。すごく面白いと思っています。

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江北ゴムとの出会いを通じて「ゴムの可能性や面白さを感じています」と語る土井さん。

思いを形にするのが現代のデザイン

- Rebburの開発以降も、お二人は継続して一緒に取り組んでいるのでしょうか。

土井 はい。展示会への出展について話したり、お客さんから「こういう素材をつくりたい」という問い合わせがあれば、そこから何ができるかを一緒に考えたり、常に連絡を取り合っています。製品をどう営業していくか、どんな企業ならこの取り組みに興味を持ってくれそうか、といった相談もあります。

もちろんリーフレットなど、必要なものをデザインすることもありますが、それだけではありません。Rebburをどう広げていくか、江北ゴム製作所としてどちらへ進んでいくのか。僕は違う分野の知見を持っているので、それを提供しながら、一緒に考えているという感じです。

- 一般的な「製品をデザイナーにデザインしてもらう」という関係とは、かなり違いますね。菅原さんは、土井さんと仕事をするなかで、デザインの力をどのように感じていますか。

菅原 僕は、デザインありきで何かをやるというよりも、思いを形にするのがデザインじゃないかと思っています。まず自分たちにやりたいことがあって、「こっちの方向へ行きたい」と思っている。でも、それがまだ漠然としていることもある。それをもう少しクリアにしてもらうためのものというか。

手探りでもがいていると、なかなか先が見えません。そこにちょっと風を送ってもらって、視界が開けていく。そんな関わり方ができればいいなと思っています。

- デザイナーに答えを出してもらうのではなく、企業から思いをまず示すことが大切で、そこから一緒にゴールが見えるようにしていくのですね。

土井 そうですね。デザイナーが何かをつくることで、企業が新しい活路を見いだすというケースももちろんあると思います。ただ、僕の感覚では、菅原さんのように、やりたいことや進みたい方向がある企業に対して、デザイナーがどうサポートしていくかという関わり方のほうが、今の時代には合っているように感じます。

縁の下の素材から、自慢できる会社へ

- では、江北ゴム製作所として、これからどんな会社を目指していきたいと考えていますか。

菅原 僕は「ゴムには無限の可能性がある」と言っていますが、それはゴムだけの話ではないと思っているんです。ここで働いているみんな、人の可能性だっていくらでも広げられる。「できない」と言ってしまったら、そこで成長が止まるので、できる方法をどう考えるかが大事だと思っています。

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茶、卵殻、海苔をそれぞれ混ぜ込んだ「Rebbur」。コースターや印鑑マットなど、デスク周りで使えるプロダクトも提案。日常のなかで実際に素材に触れてもらうことで、Rebburの新たな活用につながることを期待している。

菅原 言われたことをやるだけではなくて、その期待を超えるような驚きや楽しさをつくりたい。「言われたこと以上をやろうよ」と言うのは簡単ですけど、実際にやるのはなかなか難しいんです。

- その先に、どんな10年後を描いていますか。

菅原 全国のお客さんから頼りにされる会社になっていたいですね。他社とは違う、ちょっと変わったことを面白がって展開して、国家プロジェクトに関わるような相談も舞い込んでくる。

これまで縁の下の力持ちだったゴムが、その枠を超えて主役になるような仕事もしたい。そして、働いている人たちが家族に自慢できるような会社にしたい。そんな未来を描いています。

- Rebburも、その未来へ向かう一つの取り組みなんですね。

菅原 そうですね。うちはBtoBで、言われたことをやるのはめちゃめちゃ得意なんです。「こういうことで困っている」と相談されたり、図面が来たりして、それを形にするのはすごく得意です。

でも、これからはゼロからものをつくることも必要だと思っています。誰かから言われたものをつくるだけではなく、自分たちでゼロから考えて、ものをつくれる組織になりたい。それも社長である僕がやるのではなくて、会社としてできるようにしたいんです。

- そのための体制も考えていますか。

菅原 開発部を早く立ち上げたいと思っています。社員が自分たちで考えて、開発していけるような体制にしたい。ただ、そのためにはやっぱり売れないと(笑)。

- ありがとうございました。中小企業の経営者として、目の前の責任や課題に向き合いながら、ゴムの新しい可能性まで視野に入れる菅原さんと江北ゴム製作所。そしてデザイナーとして、その思いに新たな切り口を与え、可能性を広げていく土井さん。両者の取り組みから、これからも目が離せません。

グッドデザイン探訪では、あるテーマを切り口にインタビューや仕事紹介の記事をお届けしていきます。今回のテーマは「中小企業パラドックス」。市場競争ではなにかと不利とされがちな中小企業*ですが、自由に発想できたり、意志決定が早くなったりなど、メリットもあるはずです。パラドックスとして、中小企業だからこそ生まれたグッドデザインを掘り下げます。 *資本金3億円以下、従業員総数300人以下の企業


素材 Rebbur

株式会社江北ゴム製作所

Rebbur(リバー)は、工業用ゴムメーカー・江北ゴム製作所が、デザイナーの土井智喜らと開発した新しいゴム素材である。卵殻や茶、海苔などの未活用材と天然ゴムを組み合わせ、素材そのものが持つ色や香り、質感を生かしている。未活用材を約70%、天然ゴムを約30%とする配合では、ゴムの柔軟性を保ちながら、混ぜ込む素材によって異なる表情や特性を生み出すのが特徴。鉄粉を配合して磁性を持たせるなど、素材の組み合わせによる用途の広がりも探っている。廃棄物の削減にとどまらず、これまでにないゴムの価値と可能性を提示している。


受賞詳細
2025年度グッドデザイン賞 https://www.g-mark.org/gallery/winners/33752?years=2025

デザイナー
土井 智喜


石黒知子

エディター、ライター

『AXIS』編集部を経て、フリーランスとして活動。デザイン、生活文化を中心に執筆、編集、企画を行う。主な書籍編集にLIXIL BOOKLETシリーズ(LIXIL出版)、雑誌編集に『おいしさの科学』(NTS出版)などがある。


白石ちえこ

写真家

町主催のモノクロ引き伸ばし講座を受講したのがきっかけで、写真を始める。写真家助手を経て、暗室で作品制作をしながら雑誌等の撮影を中心に活動している。

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