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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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ご挨拶

フォーカス・イシューを知る

「フォーカス・イシュー」とデザインの新たな可能性

2015.10.16

日本の社会、産業や暮らしのあり方が変化を続ける中で、デザインは次の時代を切り拓き、築いていくための、ひとつの推進力であるべきです。そのために、デザインが今日の社会でどのようなことを担っているのか、これからの社会に対してどのようにはたらきかけていくことができるのか、2015年度のグッドデザイン賞ではこのような点を重視しながら審査を進めてきました。


デザインは、20世紀のはじめに誰もが幸福に生きるための思想として基本的な骨格が形成されて以来、その役割を細分化させ、洗練させることで社会における精度を高めてきました。しかし、今ではデザインの役割が社会に新しいソリューションやイノベーションをもたらすことと同義になりつつあり、デザインも高度化し複雑化した社会の課題や要求に向き合い、何らかの提案性を示すことが求められるようになっています。そのため、ものごとの表層面だけでなく、より成り立ちの源流に近い部分で、考え方やコンセプトといった次元にまでデザインが積極的に関わることが増えてきました。

たとえば環境や教育や地域社会など、これまでデザインの関わりが比較的薄かったとされる領域でも、近年ではデザインの果たす役割が大きくなっていることにも、そうしたデザインの向き合う状況の変化が示されています。今までのデザインがその役目を果たしてきたように、ひとつの美しいものを生み出すことで、私たちの暮らしの質を高めていくこと、新しく生まれてくる産業分野を適正に発展させていくために、新たな技術にふさわしいかたちを与えることは、デザインが今後も変わらずに担っていくべき大切な役割です。それに加えて、デザインが社会の課題や要求をこれまで以上に意識するときに重要になるのが、社会のさまざまな事象に対して「デザインとして見立て、デザインを活かしていく」力です。それは、まだかたちとして完成されていなくても、新しい可能性や潜在力を持ったデザインの芽を育てていくことであり、これまではデザインの枠ではとらえられなかった、社会に遍在するさまざまな取り組みを積極的にデザインの対象としていくことを意味しています。そのために、デザインの考え方や視点・アプローチを、社会に広く活かしていくこと、デザインがさまざまな分野の知見や活動と結びつきながら、社会の変化を促進していくことが必要です。このような考え方のもと、デザインがこれからの社会と暮らしのかたちを生み出していくプラットフォームとなることを目指して、2015年度のグッドデザイン賞が新たに打ち出したのが、12の「フォーカス・イシュー」です。この「フォーカス・イシュー」とは、社会や私たち一人ひとりが取り組み、解決していかなければならない課題であり、来たる社会でデザインが特に求められるであろうと考えられる領域です。それらに対して、いまデザインが具体的に関与している内容を読み解き、この先にデザインがさらに貢献していく可能性が見出せるのかを掘り下げるとともに、その成果をメッセージとして発信して、デザインを通じたひとつの運動へと発展させていくことが「フォーカス・イシュー」の目的です。

それぞれの「フォーカス・イシュー」に関わりが深い領域の最前線で活動する12名のフォーカス・イシュー・ディレクターは、今回のグッドデザイン賞を受賞したさまざまなデザインに対して、きわめて洞察と示唆に富んだ目を向け、その今日的・未来的な意義を解釈しています。ハードウェアやソフトウェアといったデザインの枠を越えて、一つひとつのイシューの解決に向けてデザインが担いうること、私たちが意識すべきことが提言として示されています。この「フォーカス・イシュー」を通じて、デザインから見えてくる可能性を社会と共有できるとともに、デザインという概念自体をさらに社会的に一歩前に進められるものと考えています。


永井 一史

グッドデザイン賞審査委員長

 


柴田 文江

グッドデザイン賞審査副委員長