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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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この記事のフォーカス・イシュー

防災・減災・震災復興

災害を通じて進化が試されるデザイン

2015.12.31


応募作の全体を通してみると、いわゆるコミュニティ・デザイン系の取り組みが想像以上に多いことが印象的だった。東日本大震災から4年以上が過ぎたとはいえ、まだ復興は立ち後れており、ハードよりもソフトの方が早く立上がりやすいことが、その一因だろう。また3.11を契機に、建築を含むデザインの分野が、コミュニティの問題に注目するようになった実態を反映したように思われる。個人的には、地味で機能的という防災・減災・震災復興のイメージを変えるような試みを今後期待したい。

筆者が担当した防災・減災・震災復興のフォーカス・イシューの枠組に入る作品としては、以下の事例が挙げられるだろう。

例えば、復興関係(釜石市上中島町復興公営住宅Ⅱ期、南三陸町町営入谷復興住宅、仙石東北ライン)、福島原発事故もふまえたエネルギー系(自立型水素エネルギー供給システム、エネループ ソーラーストレージ、傾斜地対応を可能にした鋼製太陽光架台)、建材(不燃膜天井、中層木造耐火プラットフォーム、止水ドア、パネル型面格子壁)、プロダクト(消火器「カルミエ」、手回し充電ラジオ)、システム(しろあり保証制度、小規模コミュニティ型木造復興住宅技術モデル群、一条BCPモデル、築古ビルのバリューアップ転貸事業、霞が関ビルディング 防災センター)などである。応募作の全体を通してみると、いわゆるコミュニティ・デザイン系の取り組みが想像以上に多いことが印象的だった。例えば、みやまスマートコミュニティ、東北和綴じ自由帳、そなえるカルタ、りくカフェ、久之浜防災緑地について考えよう、石巻・川の上プロジェクト、モーハウスの被災地支援活動などである。東日本大震災から4年以上が過ぎたとはいえ、まだ復興は立ち後れており、ハードよりもソフトの方が早く立上がりやすいことが、その一因だろう。また3.11を契機に、建築を含むデザインの分野が、コミュニティの問題に注目するようになった実態を反映したように思われる。ただし、審査の過程で、二次通過、ベスト100という風に、点数が絞られると、かなり減ってしまった。実際、ずば抜けたものが少ない。すなわち、重要性が認識されているにもかかわらず、防災・減災・復興復興の目的に対して、デザインのクオリティがまだ十分に高くないからだろう。ゆえに、この分野の課題は、まずデザインのレベルを上げることが求められる。コミュニティ・デザイン系もそこがまだ弱いように思われる。個人的には、地味で機能的という防災・減災・震災復興のイメージを変えるような試みを今後期待したい。

さて、筆者は仙台で勤務しており、被災地の状況を近くで観察すると、大きな懸念事項がある。建築の現場では、デザインに力を入れたり、それを雑誌に発表することを止めて欲しいという発注者側の声が存在するのだ。ヘタをすれば、今後、すぐれた復興のプロジェクトが登場しても、グッドデザイン賞に応募できないかもしれない。目立つことで、被災で焼け太りしたというイメージを持たれ、メディアから批判されるのを発注者が嫌うからだ。言い換えれば、被災者は被災者らしい粗末なハコモノで暮らすと波風が立たない「空気」が強い。つまり、決められた予算内で、より良いものを設計しても、褒められるどころか、余計なことをしたとみなされる。新国立競技場をめぐる騒動も、デザインの良し悪しではなく、結局は安ければ安いほどいい状況に流された。こうした社会でグッドデザイン賞がもちうる意義は、優秀な作品の顕彰を通じて、デザインが価値を生みだすことを被災地でも伝えることではないか。デザインは無駄な出費ではなく、より機能的に使え、それが愛されることにつながる。むろん、これはグッドデザイン賞の当初からの理念だろう。だが、いまそれを本当に社会に伝えられることができるかが、試されているはずだ。

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五十嵐 太郎

建築評論家 | 東北大学大学院 工学研究科 教授

あいちトリエンナーレ2013芸術監督、第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナー、「戦後日本住宅伝説」展(埼玉県立近代美術館他巡回)の監修、「311以降の建築」展(金沢21世紀美術館)のゲストキュレータを務める。第64回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。『現代日本建築家列伝』(河出書房新社)、『被災地を歩きながら考えたこと』(みすず書房)ほか著書多数。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時