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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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この記事のフォーカス・イシュー

医療・福祉

「医療・福祉」における優れたデザインとは

2015.12.31


医療・福祉は年々社会的関心が高まっている領域である。加えて、ITやロボット技術との融合など、従来の医療製品としての枠がますます広まりつつあるといえる。グッドデザイン賞の対象となる製品についても、ジャンルの垣根をまたぐような製品も増えてくることが予想される。このような医療・福祉分野におけるデザインの意味とは何であるか。外見的な意味でのデザインはもとより、機能の改善、全くの革新性、そして規制をクリアし、適切にその有効性と安全性を社会に対してアピールしているか、これらのポイントを踏まえ、優れたデザインとして何を社会に対して訴求しているのか、その点を明確にしてデザインが担う役割や意義を追求することが必要であろうと考える。

医療製品は有効性・安全性のバランスが適切に評価され、しかるべき規制に則って商品化されて初めて医療製品と呼べる。その効果・効能はなんらかの科学的根拠に基き、適切に説明されなくてはならない。その際、医療製品の有効性・安全性評価は容易にできるものではなく、その意味では規制当局からの承認を受けているかどうかというのが一つの大事な判断基準になるものと思われた。

医療や福祉に関連する製品のデザインに対しては、供給者にもユーザーにも、いくつかの異なる視点がある。従来と機能などは変わらないが意匠としてのデザインに優れる製品。従来製品と比べ、医療用途としての機能美(機能性)に優れる製品。そして、意匠や機能に優れているとされているが、関連規制上、医療機器や医療製品として認められていない製品。こうした、異なる視点を持ってそれが「グッドデザイン」であるのかを、総合的に判断しなければならなかった。

ある製品は優れた技術により革新的な医療上の効果が見込まれるとされた。しかし、現時点では美容用途のみが製品化されており、医療用途については研究開発途上であった。この製品については美容用途としての革新性が認められるものの、医療用途としては判断するには尚早であるとされた。そこには、技術的なイノベーションがデザインによって昇華されることで、今後実際の医療の現場へと実用化されていくことへの期待感があった。

「3Mマスクにくっつくアイガード」のようなアイデア主導で優れた製品デザインとして成立されたものや、2型糖尿病治療薬「トルリシティ皮下注0.75㎎アテオス」や磁気共鳴画像診断装置「シグナ パイオニア」といった、高い技術力があって初めて機能することにつながり結果的に優れたデザインになったものなど、医療・福祉の質的向上に向けたデザインのアプローチは多様であった。

やはり高い技術力に裏打ちされた製品として、ロボットと医療の融合の結果生まれたデンソーの作業補助装置「iArmS」があった。ロボット技術は昨今では医療分野に積極的に取り込まれており、医師の作業補助というきわめてデリケートな状況で活用される機器として成立していた点で、ロボティクスが医療現場に浸透しつつあることを象徴する。そして、ITと医療の融合事例「業務用情報機器AiRScouter」も見られ、同様の社会現象となっていることをうかがわせた。このように、研究成果や技術の進歩、さらに産業構造の変化などが如実に反映されながらも、有効性と安全性が社会に訴求され、ユーザーベネフィットの獲得に真摯に向き合っている姿勢が認められることが、この分野におけるデザインの質を判断するうえで基本となる視座といえるであろう。

最後に、グッドデザイン賞における本分野の製品デザイン評価に関して、提供される情報の内容について言及しておきたい。ある製品は、医薬品医療機器等法上の届出がなされ、医療機器として販売されていた。しかし、規制の範疇で説明できる効能効果以上の機能について誤解を招くような表現が応募の際に使われており、審査の過程でミスリードされる要因となり得た。評価の前提となる情報として、規制上の承認状況とともに、効能効果を遵守し、規制の範疇で製品をアピールすることが必要であると思われた。さらに、主に意匠面や使い勝手のデザインにポイントがあるのか、機能性や技術性にポイントがあるのかといった、製品のポイントについて説明がなされることが望ましいと考える。従来の自社製品と比べてどこが優れているのか。さらには他社の類似製品と比べた際の競合優位性についての情報提供があると、特に判断がスムーズに進むものと思われる。

https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dc975c5-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dc98cca-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dc99c7e-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dca0296-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dca09dc-803d-11ed-af7e-0242ac130002

内田 毅彦

医師・医療機器インキュベーター |株式会社日本医療機器開発機構 代表取締役社長

臨床医として内科・循環器内科専門医を取得後、米国ハーバード大学院にて臨床研究の方法論に関する修士号を取得。その後日本人として初めて米国食品医薬品局(FDA)にて医療機器審査官を務める。医療機器大手ボストンサイエンティフィック米国本社ディレクター、シリコンバレーでの医療機器開発コンサルティングを経て、現在日本で初めての本格的医療機器インキュベーター事業を展開中。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時