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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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この記事のフォーカス・イシュー

安全・安心・セキュリティ

使いたい気持ちが安全につながるデザイン

2015.12.31


このフォーカス・イシューに取り上げられたキーワードはいずれも日常生活において似た言葉として用いられるためその定義を整理する。知見によれば安全が客観的な判断であるのに対して、安心は主観的な判断と解釈できると考えられる。一方セキュリティは保障や防犯など安全のための手段として用いられることが多く、いずれも微妙に違いがあると言える。

グッドデザイン賞で取り扱う製品や企画を通じてお客様にご満足いただくためには、お客様一人一人の主観的判断に基づいて安心感を持っていただく必要がある。一方でデザイナーはお客様の安心感を生み出すために、客観的な判断に基づく安全をデザインに備える役割を担うと言える。1995年に施行された製造物責任法の趣旨を鑑みれば役割以上の責任が求められると言っても過言ではない。今年応募された多くの優れた作品から審査によりベスト100として選ばれたものを通じ、そこに見られる安全と安心の傾向を検討すると、私たちが安心感を求める背景にある生活上の不安材料として災害、病気、事故、犯罪の4つが浮かび上がってきた。

まず自然災害に関して言えば、これを人類の手で防ぐことができない。しかしながら予め備えることは可能である。その一つとしてエネルギーの安定供給は災害発生時だけでなく、その後に続く生活を支える上で不可欠と言える。東芝の「自立型水素エネルギー供給システム H2One」は災害時の電力供給に安心感を与えることが期待される。またPanasonicのランタンやソーラーストレージは日常生活において使用できるものが、災害時にもそのまま継続的に利用できる点でお客様に安心感をもたらすと言える。

次に、世界的に見ても充実化が進む医療に関係する作品からは、さらに汎用性と品質の向上を窺うことができる。例としてGEの超音波診断器「Vscan Access」は発展途上地域等での使用を可能にした。またイーライリリーの糖尿病治療薬「トルリシティ皮下注0.75㎎アテオス」は注射針が露出しておらず、安全に注射できる点で医療事故の発生を防ぐ機能を有する。ともに医療における安心感が期待できる作品である。

一方で日常生活における不慮の事故も当事者にそのつもりがなくても発生することから、事故を未然に防ぐ仕組みと利用者の事故防止に対する意識が必要となる。富士重工業の「アイサイト」はドライバーの運転を助ける自動ブレーキシステムの一つとして交通安全を守る。一方、アイウェアとして3Mジャパンの「3Mマスクにくっつくアイガード」は、外科治療等における薬品や液体の飛沫から医師や看護師を守る機能を有する。同じく「3Mセキュアフィット保護めがね SF400シリーズ」は、スポーティなフォルムの保護メガネにより安全装具が必要な作業現場での利用意識の向上が期待される。

最後に犯罪については、世界的に見て我が国は治安が極めてよいと高く評価されている。さらに技術的に犯罪を抑止するシステムとしてPanasonicのネットワークカメラ「WV-SFV481」は、万が一の時の状況を記録する機能を有するとともにその存在が犯罪を抑止することが可能である。一方近年特徴的な犯罪の一つとしてコンピュータネットワークを経由した不正アクセスがあげられる。東芝の「量子暗号通信システム」は不正アクセスを防止する暗号システムである。いずれも犯罪抑止により日常生活における安心感を得ることができると考えられる。

一度デザインされた製品がお客様の手に渡ればその後にどのような使われ方をするかはお客様の裁量にお任せするしかない。結果として安心感が得られるかもお客様次第と言える。しかしながら上記の通り、製品設計における安全性の担保は必須であり、主観的判断に依らず安全機能の充実を図る必要がある。お客様が強く安心感を期待する上記4分野では、安全性の追求が特に強く求められると考えられる。ことの次第によってはお客様のご不興の要因となる可能性があるが、万が一生じる危害を考慮すれば、デザイナーは当然のこと、使用されるお客様自身にもまた安全性を優先させた製品評価をお願いする必要があると考えられる。安全と安心はお客様とデザイナーとが一緒に作り出すものと考えることができる。そのためにはお客様が安全な使い方をされた時の満足感や充実感が必要となると考えられる。いわゆるUX(ユーザエクスペリエンス)によってお客様を安全へと導くデザインが期待される。

以上の点を踏まえ、今回、安全・安心・セキュリティのフォーカス・イシューからは「使いたい気持ちが安全につながるデザイン」を提言する。

https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dc2bcea-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dc4c4d3-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dc6bdaf-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dca00f2-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dca3488-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e2b5543-803d-11ed-af7e-0242ac130002

加藤 麻樹

人間工学研究者 |早稲田大学 人間科学学術院 准教授

早稲田大学人間科学部卒業、大学院理工学研究科修士課程修了。修士(工学)。博士(人間科学)。専門は人間工学。日常生活における作業負担の軽減や安全性の向上を目的として、高齢者や子どもの安全に関する研究、自転車や歩行者等の生活圏の交通安全に関する研究等を行っている。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時