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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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この記事のフォーカス・イシュー

情報・コミュニケーション

情報・コミュニケーションにおける三つの潮流

2015.12.31


情報・コミュニケーションのフォーカス・イシューに属するものとしては、デジタル機器とのインタラクションなど、直接人間が操作し機能を引き出す提案が主に応募されている。以下に現状の特徴的な三つの傾向と、若干の提言について記したい。

拡大するIoT

まず、IoT(Internet of Things)と総称される、ネットワークに接続して効果を発揮するデジタル機器の提案が拡大している。たとえばネットワーク経由で家の鍵を制御できるスマートロック「キュリオスマートロック」やスマートロックロボット「Akerun」などがある。スマートスポーツデバイス「Smart B-Trainer」はスマートフォンと連携してエクササイズを支援するデバイス、コミュニケーションロボット「BOCCO」はロボットとしてはとてもシンプルなものだが、家族間のコミュニケーションの仲立ちをすることを特徴とし、スマーフトフォン連携が前提となっている。ユビキタスコンピューティングという概念が提唱されて20年以上となるが、ここ数年、急速にそれが実用化され、私たちの社会に具体的な影響を及ぼすようになってきた。とくにスマートフォンが共通インフラとなり、多様な機器が個人や社会と連携を持つための窓口になっている。その可能性や使い方はまだ充分掘りつくされたとは言えない。いままでにない「こんな利用方法があったのか」という提案や、実際にどのようにして私たちの暮らしを豊かにしていくか、その目的が明確なものの提案を期待する。

製品開発経路の多様化が示す可能性

デジタル機器やハードウェアをプロダクト化することは多様な技術を要していたが、最近ではクラウドファンディングにより資金調達をしてスタートアップ企業でもハードウェア機器の製品化ができる道筋が整いつつある。国内でも「MotionGallery」のようなクラウドファンディングサービスが登場している。応募の具体例としては、LEDの残像効果により空中にカウント数を提示するというユニークな縄跳びデバイス「Smart Rope」が、クラウドファンディングの代表であるKickstarter出身である。

また、DIYプラットフォーム「MESH」は大企業からの提案でありながら、クラウドファンディグにより社外から一定以上の出資を募って製品化したという経緯を持っている。このように、製品開発の経路が変化しており、デザイナーや小規模なデザインファームが直接製品を開発することも視野に入ってきた。従来にもましてユニークで楽しいデザインが登場することを期待している。

デジタルテーラーメード社会の到来

3次元プリンタに代表されるファブリケーション技術の普及もデザインの具現化や販売形態に影響を与えている。いままでも、3Dプリンタは試作品やモックアップの製作には活用されていた。最近では、電動義手「HACKberry」のように、3Dプリンティング技術により、使用者に適合した義手を従来と比較して大幅に低価格で製品化することに成功した事例が出てきている。この傾向が進むと、個々の利用者の体型や好みに合わせた製品などを合理的な価格で販売することも可能であろう。工業化以前の社会では、ものは一品ずつ手作りであったが、ファブリケーション、インターネットなどにより、いわば「デジタルテーラーメード」な社会が到来するのではないだろうか。

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暦本 純一

ヒューマン・コンピュータ・インタラクション研究者 | 東京大学大学院 情報学環 教授

世界初のモバイルAR(拡張現実)システムNaviCamを1990年代に開発、マルチタッチの基礎研究を世界に先駆けて行うなど常に時代を先導する研究活動を展開し、現在はAugmented Human研究を進めている。東京大学情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長。ACM SIGCHI Academy会員、ACM UIST Lasting Impact Award, iF Interaction Award等を受賞。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時