この記事のフォーカス・イシュー
社会基盤・モビリティ
都市を動かす、地域をつなぐ。社会基盤と都市デザインの新たな潮流
2015.12.31
2020年に向けて、駅や街路や公共建築だけに限定されないインフラストラクチャーとさまざまなモビリティの外挿によって、東京と地域の風景は大きく引き直されようとしている。都市と地域の中の人々の暮らしや、交流、活動は、こうした風景の変化にどう呼応していくのか、社会基盤とモビリティデザインのこれからについて、今年のグッドデザイン賞から考えてみたい。
ものと地域をつなぐモビリティデザイン(道の駅と農家ロジスティクス)
2050年になれば、中央リニア新幹線に乗れば山の手線を一周するくらいの時間で6,000万の人が互いに顔を合わすことのできる「拡張都市」東京が出現する。ものごとや情報の移動がさらに高速化する東京は大深度地下駅と地上を結ぶ縦のモビリティデザインを必要としているが、僕らが普段メトロで使う既存のエレベーターはどこか前世紀的だ。だが、2012年のロンドンや2016年のリオは、レジブルロンドンと言われる新たなサインシステムや(かつての東京オリンピックを契機とした)都市大改造のように、都市イメージの更新を目指しているのが特徴だ。無論日本では人口減少は著しい。しかしその一方で世界では2050年に向けて30億人が増加する。これらの時代が交錯する2020年に向けて、今デザインに何ができるかが問われている。こうした視点に立った時、今年の受賞作の中では、滑らかなエレベーターと水素カーの出展が目を引いた。エレベーターは、どこまでも滑らかで、東京の縦の未来的な動線をイメージさせたし、燃料電池の空冷機能をデザインに取り入れ、エネルギー新時代を予感させる「ミライ」は、2020年に新しいエネルギーと移動のかたちを世界にアピールする象徴的なデザインとなるであろう。
東京のモビリティデザイン(エレベーターと水素カー)
拡大を続ける東京に対して、人口減少が進む地域はどのように呼応していくことができるだろうか。地方に目を向けたとき、人と人、ものとヒトのつなぎ方に、新たなデザインがあらわれ現れ始めている。例えば、場所とヒトをつなぐ新しい方法論としてUberやAmazonは優れているけれど、こうしたサービスは、日本の優れたモビリティインフラである「宅急便」によってその高度なサービスを提供できているといっていいだろう。一方「道の駅」は、地域の生活インフラとして、地元産品の販売などを通じて地域の暮らしの日常と非日常を結びつける日本独自の仕組みといっていい。
1990年代から画一化が進み、すっかり退屈になった米国のバスディーポ(バスの駅)に比べ、日本の「道の駅」は地域文化継承の場としてとても優れている。道の駅「ソレーネ周南」では、高齢化した農家からの集荷を道の駅へ、さらには各家庭から注文を受け付け配送まで。川に面した道の駅を基盤とした農地から自宅までの地域ロジスティクスの提案は、人口減少が続く地域において、持続可能なモビリティデザインとして高く評価できよう(そもそも道の駅は日本独自のグッドデザインだと考える)。道の駅を社会基盤として十分に活かしきった地域デザインとしての仕組み提案はとても面白いと感じられた。
まちに開くオープンアーキテクチャ(工場をひらく、道の駅)
同じ道の駅でも、工場という産業空間を道の駅というオープンアーキテクチャーとして生まれ変わらせたデザインも面白い。機能だけを詰め込んだ産業建築の代表格である工場は、本来閉じたものであって、個別目的に応じるためだけに作られた建築を社会基盤とは言わないわけだが、町に向かって閉じるように機能的な建築が思い思いにつくられた結果として中心市街地は空洞化し、空き家が増えているのも事実だろう。そうした建築を地域に対してどのように開いていくのか、地域の文脈を読み解き、地域の社会基盤として建築を再価値化していく可能性が感じられた。街場の工場を生まれ変わらせたリノベーションは、閉じた建築空間を街に開くための新たなインフラストラクチャーデザインといえるのではないだろうか。
モビリティと社会基盤というと硬い感じがするが、グッドデザイン賞の審査会場であった臨海副都心の国際展示場を歩いているうち、硬いものがだんだんやわらかくなって、殻を脱ぎ捨てようとしているような感じがした。もちろん、「マツダ ロードスター」のような本源的移動欲求を刺激するモビリティや、富士重工業「アイサイト」のような安全のデザインも素晴らしかったのだけれど、社会基盤とモビリティのデザインは、都市や地域の人々の暮らしを長い目でみて大きく変えていくものだと思う。
そこに何らかの形を与えることがデザイナーには求められているし、逆にいえば、2015年のグッドデザイン賞に応募された社会基盤とモビリティデザインの作品には、これからの東京と日本の風景を考えるヒントがあるように思った。
https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dc91cd7-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dc92492-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dc940dc-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dc943b2-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dcc05e9-803d-11ed-af7e-0242ac130002羽藤 英二
都市工学研究者 | 東京大学大学院 教授
広島大学卒業後、MIT客員研究員、Leeds大学客員研究員、UC Santa Barbara客員教授を経て、現職。ネパール工科大客員教授を兼任。2002年トランスフィールド社設立。プローブパーソンシステムや自転車共同利用システム札幌ポロクルの開発から、尾鷲コーポラティブフォレスト、新長崎駅のデザインを手掛ける。世界交通学会賞などを受賞。東京大学社会基盤学科で教鞭をとりながら、土木・都市・建築の枠を越える東京2050計画など様々な領域で幅広く活動中。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時