この記事のフォーカス・イシュー
地域社会・ローカリティ
社会教育と学校教育におけるプログラムとデザインの融合
2015.12.31
多くの方が地域社会やローカリティという言葉から連想するのは、「まちづくり」という言葉に代表される地域社会の再活性化や希薄化したコミュニティの再興だろう。だが、地域社会やローカリティが示す問題の本質は「昔の活気や強いつながりを取り戻そう」ということではない。行政や税制の体制が整ったことにより社会が「生活の個人化」へとシフトした一方で、つながりの希薄化による逆の生きづらさが露呈した現代において、つながりがあり過ぎもせずなさ過ぎもしない「いいあんばいのつながり」と、適切に疎らである「適疎」の状態とはいかなるものかを考えることなのである。このように書くと「コミュニティをいかにして形成するか」というソフトの問題と思われがちだが、コミュニティが機能する空間が新たな活動を生み出すという効果を考えると、ソフトだけではなくハードも踏まえた両輪によるデザインが重要となる。
この前提をもとに地域社会とローカリティの2つの視点から今年のグッドデザイン賞を概観してみたい。「地域社会」は読んで字の如しだが、「ローカリティ」は少々説明が必要だろう。この場合のローカリティは、「地場」とか「産地」というほどの意味である。
まず、地域社会という視点から見ると、地域社会の交流拠点となる施設に秀逸なものが多かった。このことは、地域のつながりがますます希薄化していることを反映しているといえよう。「OTera Cafe」は寺院の空き時間を利用したカフェであり、宗派に関わらず地域の交流拠点となる可能性を持っている。「わかたけの杜」は分棟方式のサービス付き高齢者向け住宅であり、超長寿社会の未来を連想させる地域拠点である。「ひみ漁業交流館 魚々座」は地場産業を知る社会教育施設であり、地域住民と観光客の交流拠点である。また、この事例は大規模なリノベーションによって生み出された施設でもある。
どうも地域社会とリノベーションは相性が良いようだ。地域社会のつながりが希薄化している今、既存の建築物と人々の記憶とのつながりを断つことなく拠点をつくることが重要なのだろう。「シェアビレッジ」は茅葺きの民家を多くの人たちの支援によってリノベーションした事例であり、地域社会の交流拠点はすでに地域社会だけで維持するのが難しくなっていることを示している。その結果、地域社会を超えた広範囲のコミュニティを形成することにつながっている点が興味深い。
ローカリティという視点から見ると、地産地消に関するプロジェクトに優れたものが多かった。食料やエネルギーの地産地消、地域経済の再生など、地域における現代的な課題に対応しているといえよう。地産地消という点では、「みやまスマートコミュニティ」がエネルギーの地産地消に、「京都八百一本館」が京都の都心で野菜の地産地消にそれぞれ取り組んでいる。いずれも多くの人たちに地産地消の重要性を伝える役割を果たしている。
さらに、子どもの頃から地産地消を当たり前のものとするための取り組みとして、「和食給食応援団」の小学生時代から地域ごとの味覚を養う試みや、「地域産材で作る自分で組み立てるつくえ」の、教室で使う机と椅子に地域産材を使い、自ら組み立てて使い、卒業時に持ち帰るという試みが特徴的である。こうした子どもたちが大人になる頃、彼らの判断基準は我々とは違ったものになるのかもしれない。コミュニティを考える際に「継続性の担保」はひとつの重要な課題となる。例えばソフトとハードが上手く融合して新たなよいコミュニティが形成されたとしても、そのコミュニティの中心メンバーはいずれ歳を取る。また、中心メンバーが固定化されることは新たなしがらみ、つまり「強すぎるつながりによるストレス」を生み出すことにもなり得る。ともすると、その中心メンバーが何らかの理由で去った瞬間にそのコミュニティが機能しなくなることも十分にあり得る。つまり、コミュニティを考える上で必要なのは時代によって人が変わりゆく「流動性」と、その時代の状況に応じて様相を上手く変えられる「可変性」にあるともいえる。上述したグッドデザイン賞の事例を通じて、地域社会やローカリティに関する課題へのひとつのアプローチとして、交流拠点等で行われる社会教育や学校教育のプログラムとデザインの美しい融合による、流動性と可変性を持ち得た継続性の担保が重要になるように考えられた。
https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dcba921-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dcc0710-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dcd267d-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dcd5172-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dcd5b27-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dcd5f75-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dcd68af-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dcd8abf-803d-11ed-af7e-0242ac130002山崎 亮
コミュニティデザイナー | (株)studio-L 代表取締役
地域の人が地域の課題を解決するための支援を行う。主な仕事に海士町総合振興計画、マルヤガーデンズコミュニティデザイン、しまのわ2014など。主な著書に『コミュニティデザイン(学芸出版社)』『コミュニティデザインの時代(中公新書)』、『ソーシャルデザイン・アトラス(鹿島出版会)』など。2014年からは東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科長を務める。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時