この記事のフォーカス・イシュー
新たな社会の道しるべとなるデザイン
新たな社会へとつながっている2つの道
2021.02.04
気がつけば無意識に多くの人が通っている幹線道路と、そこも通れるんだと気づかせてくれた抜け道
今回のグッドデザイン賞にフォーカス・イシューのディレクターとして関わる経験は、あらためて「デザインが導く未来ってなんだろう?」と考える機会でした。それは「これからの時代はどのようにデザインされていくべきか?」という問いでもあります。
大きな軸は「スピード」です。環境問題などの諸問題が時間的に待ったなしの状況にあるなかで、はっきりと効果の出る手段、目的地に行き着くこと自体にプライオリティーを置いたデザインであることが重要だと思います。
2030年までに貧困、飢餓、健康、教育、エネルギーのクリーン化といった17の目標を掲げる「SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)」が採択されてから、企業、NPO、個人が持続可能な社会を目指してさまざまな活動をしています。その多様さは、ゴールへの多様な道筋も示してきましたが、2030年まであとわずか10年という時間には、切迫するリアリティーがあります。
今すぐにでも具体的な方法を見つけなければならない、という現実。今回のグッドデザイン賞ではそれに対応するような具体性を持ったデザインと出会うことができたと思います。
今回、私は「新たな社会の道しるべとなるデザイン」とテーマを掲げ、人々の行動や意識を変容させる矢印になりうるデザインについて考えてきました。中間発表では、ここにはさらに幹線道路(既に確立されたものをみんなが活用する)タイプと抜け道(新しい方法を模索する)タイプの2つがあるのではないか、と話しました。この最終提言では、この視点を整理してあらためて語っていきたいと思います。
前者の「幹線道路」を言い換えると、それはある種のプラットフォーム的な性質を持ったものであり、参加のハードルが低いものと言えるでしょう。たくさんの人が通れ、スピードも出せるよう設計された道です。
特に顕著だった例が「BRING」です。コンシューマーや流通を巻き込んで、服から服をつくる発想で、循環型経済を目指したことは、今日的な素晴らしい取り組みですが、ここで注目したいのは、社会的意義への共感を要するCSR(企業の社会的責任)活動の文脈ではなく、衣料のリサイクルを販売促進と位置付けた点。それがブレークスルーにつながった要因だと思います。
しくみとして、店舗などで古着回収に参加したコンシューマーには金券が支払われます。リサイクル活動の大義だけに依らず、具体的なリターンを設け、無関心な人々にも行動してもらえるよう設計されているところが、非常にうまい。「いますぐにでも行動してもらわなければ」という意思のあるデザインだと感じました。
後者「抜け道」の代表例は「ソーラータウン府中」です。写真だけを見るとソーラーエネルギーを活用したエコな住居群である点が評価されたのかと思われるかもしれませんが、実はポイントはそこではない。コミュニティづくりの意外なヒントがありました。
多くの審査員が「面白い!」と膝を打ったのは「園路」という独自の共有システムです。園路というのは、16戸の住民がそれぞれに地役権を少しずつ供出して作った、中庭・裏道のようなみんなの共有地のことです。
マンション住まいの人は思い当たると思いますが、例えば管理組合で「うちは1階暮らしでエレベーターを使わないのに、なぜエレベーターの修繕費を支払わなければならないんだ?」というような、ちょっと困った意見があったりします。こういう声があがるのは、マンションという共有空間のなかに自分とは関わりがないと意識させる場所があるからかもしれません。
一方、各戸が土地を出しあって共有地を管理する「園路」のシステムでは、それぞれに「ここは自分の場所なのだから、自分の権利としてここを使おう」という意識が生まれやすい。強い共有意識が、場への参加意識を高め、コミュニティの活性化につながっています。
プラットフォーム型とも言えそうですが、即時的な行動変容ではなく、もっと長くゆっくりした視点を持っている。みんなが通ることで道になる。そういった点で、これは「抜け道」タイプに分類しました。
必要なのは、既存のプラットフォームに乗っかることへの寛容さや許容性
この他にも、「噛む」という行動をデザインしていく「SHARP バイトスキャン」、ウガンダの資材や建築方法によりそって建てられた日本食レストラン「やま仙 / Yamasen Japanese Restaurant」など、私が道しるべだと思ったデザインは、いずれも幹線道路タイプと抜け道タイプ分けることができますが、「南極移動基地ユニットを用いた研究プラットフォーム」には、その両方の良さが感じられました。
極地建築の分野で実績のあるミサワホームは、南極基地の設計にも関わっています。極寒の極地での建築に求められる条件とは、建設のプロではない隊員でも可能な施工方法や、簡易にできる生存環境の確立と維持です。そのために開発されたのが例えば規格化されたユニットを合体させる施工法で、これは宇宙での活動や生活を想定しています。しかし、居住空間だけでは、暮らしはつくれせん。
ミサワホームでは、このプロジェクトに参加してくれる企業や大学、研究機関を常に探しており、南極での実験や研究を、共創のプラットフォームと考えているようです。宇宙空間での生活には、あらゆるジャンルのデザインが関われる可能性があります。その意味で「みんなのプラットフォーム」と呼ぶに相応しい。SF映画のようなワクワクする物語設計も、個人的に興味深いものでした。こういったトキメキ感をデザインに組み込んでおくことは、多くの人を巻き込む上で、重要な因子だと思います。
デザインの世界は競争社会です。先んじてプラットフォームを作り、統一規格を作って優位に立ちたい。その競争のなかで私たちデザイナーも働いてきましたが、プラットフォームは、「新たにつくる」時代から「あるものを利用する」時代に、既に移行しています。私は自治体でクリエイティブディレクターとして働いた経験がありますが、役所や行政といった公共のセクターが、成功事例を真似ることで、確実に効果を挙げている事例を数多く見てきました。
オリジナリティーにこだわりの少ない自治体だから、既にあるプラットフォームに乗っかることで、あるいは既存の有効なしくみやシステムを参考にすることで、インフラとして機能させていくことができます。これこそが、短期的に社会的なインパクトが出せる方法だとしたら、公共に限ったことではありません。
「ものを作る」人はどうしても「0を1にすること」にこだわりがちですが、今こそ、既存の発想やアイデア、プラットフォームに乗っかることへの寛容さ、許容性が必要だと感じます。
みんなが通れる大きな「幹線道路」やたくさんの「抜け道」をデザインする素晴らしさ。それと同じぐらい、すでに出来上がったプラットフォームの上を歩く勇気が、意味を持つ時代になると思います。
https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e3e6dbc-803d-11ed-af7e-0242ac130002山阪 佳彦
クリエイティブディレクター|株式会社マック 東京本部 専務取締役
企業・地域・商品などのブランディング、広告・プロモーション・ウェブなど商業デザイン、コミュニケーション全般の企画・制作・クリエティブディレクションに携わる。環境啓発団体・GARBAGE BAG ART WORK代表、DV予防啓発団体・パープルアイズ理事。東京コピーライターズクラブ会員。神戸市クリエイティブディレクター(2015〜2018)、ART PROJECT KOBE 2019 TRANS- 広報ディレクター(2019)。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時