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「よいデザイン」がつくられた 現場へ

よいデザイン、優れたデザイン、 未来を拓くデザイン 人々のこころを動かしたアイデアも、 社会を導いたアクションも、 その始まりはいつも小さい

よいデザインが生まれた現場から、 次のデザインへのヒントを探るインタビュー

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今回のお訪ね先

株式会社江北ゴム製作所

「黒いゴム」から、可能性をつくる(前編)

2026.10.2

ゴムと聞いて、何を思い浮かべるだろう。タイヤ、輪ゴム、パッキン──。実際には、私たちの目に触れないところにも、ゴムは社会を支えるように使われている。創業60年を超える江北ゴム製作所も、顧客の要望に応じて素材を配合し、用途に合わせたゴム製品をつくり続けてきた。3代目社長の菅原健太さんは、「ゴムには無限の可能性がある」と自ら新しい使い方を探し始める。その試みから生まれたのが、卵殻や茶などの未活用材と天然ゴムを組み合わせた「Rebbur(リバー)」だ。大きな市場があるからつくるのではない。まずやってみる。そこから新しい仕事の可能性を探していく。小さな企業だからこそできるものづくりについて、菅原さんと、開発をともにするデザイナーの土井智喜さんに聞いた。


そもそも、ゴムって何だろう

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未活用材と天然ゴムを組み合わせた「Rebbur」。上段左から卵殻、石、茶、海苔、下段左から鉄、木の6種類を展開している。2025年度グッドデザイン賞受賞。

- まず、江北ゴム製作所が長年扱ってきた「ゴム」について教えてください。私たちの身の回りにある素材ですが、実はどんなものなのか、あまり知られていないように思います。

菅原健太(江北ゴム製作所 代表取締役社長) そうなんです。ゴムというと、輪ゴムやタイヤくらいしか思い浮かばない方が多いと思います。でも実際には、目に見えないところも含めて、いろいろな場所に使われています。

例えば水道管には、水を止めるためのゴムが使われていますし、建物には揺れを吸収する免震ゴムが使われています。電気を通さない絶縁性を生かした使い方もあります。ゴムには、伸びる、縮む、跳ねる、滑りにくい、水を止める、電気を通さないといった、さまざまな性質があるんです。

- 江北ゴム製作所では、そのゴムをどのようにつくっているのでしょうか。

菅原 うちの強みの一つは、ゴムの配合からできることです。天然ゴムや主に石油由来の合成ゴムをベースに、カーボンブラックや薬品など20〜30種類ほどの材料を組み合わせて、用途に応じた性能を持つゴムをつくっていきます。

- ゴムには、天然ゴムと合成ゴムがあるんですね。

菅原 はい。天然ゴムのほかにも、シリコーンゴムやフッ素ゴムなど、さまざまな種類のゴムがあります。それぞれ性質が違いますし、さらに配合によって性質を変えることができます。

硬くしたり、柔らかくしたり、摩耗に強くしたり。求められる性能に合わせてレシピを考えるんです。すでに配合されたゴム材料を仕入れて成形する会社もありますが、うちは材料をつくるところから製品にするところまでできる。それが、「ゴムには無限の可能性がある」と考えている理由でもあります。

「黒いゴム」では、面白くない

- 菅原さんは3代目ですが、入社した頃から、そうしたゴムの可能性を意識していたのでしょうか。

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江北ゴム製作所代表取締役社長の菅原健太さん。同社は多様なゴム製品を製造し、東京都内に本社と3つの工場、埼玉県に事業所、山梨県に工場を備える。

菅原 いや、最初からそうだったわけではないです。入社したばかりの頃、工場で社員が汗をかきながら仕事をしているのを見て、「この製品、何をつくっているんですか」と聞いたことがあるんです。そうしたら、「わかんないです。黒いゴムなんですよ」って。

それを聞いて、「それじゃ面白くないな」と思ったんです。自分たちがつくったものが、どこで、何に使われているのかわからない。せっかくなら、「これは自分たちがつくっているんだよ」と家族や友達にも話せるような仕事がしたい。「どうせやるなら楽しく」というのは、その頃からずっとあります。

- 江北ゴム製作所は、もともとどのような仕事を得意としてきた会社なのでしょうか。

菅原 基本的にはBtoBで、お客さまから「こういうものをつくってほしい」と言われて、それに応える仕事です。うちは、言われたものをつくることにはすごく強いんです。

でも、ただ言われた通りにつくるだけではありません。お客さまと話していると、「本当に困っているのは、そこじゃないんじゃないですか」と気づくこともあります。お客さまはゴムのプロではないので、「こういうゴムが欲しい」と言われても、話を聞いてみると別の材料や方法のほうがいいこともある。そこまで含めて提案するのが、僕らのいう「ゴムの困りごとを解決する」ということです。

- 長年、そうした受注仕事を続けてきたわけですね。

菅原 そうですね。それは今でもうちの大事な仕事です。ただ、これから人口が減っていけば、ものをつくる量も減っていく。以前はゴムに詳しい商社の方が間に入って仕事を持ってきてくれましたが、そういう人も少なくなっています。

そうすると、僕らメーカーがただ待っているだけでは、仕事はだんだん減っていくんじゃないか。言われたものをつくることは得意だけれど、それだけではなく、自分たちから何かを生み出していかなければいけないと考えるようになりました。

- そこで、自社から新しいものを提案する取り組みを始めたのでしょうか。

菅原 そうですね。大きなきっかけの一つが、新型コロナウイルスでした。仕事が止まって時間ができたこともあって、「自分たちで何かできないか」と考えたんです。

そこで開発したのが、抗ウイルス性を持たせたゴムでした。もともとうちには配合からゴムをつくる技術がありますから、その技術を使って、自分たちから新しい材料をつくってみようとしたもので、実際に公園の遊具などにも採用されました。

ただ、そのときにわかったことがありました。材料をつくっただけでは、なかなか広がっていかないということです。

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菅原 僕らは、それまでお客さまから「こういうものが欲しい」と相談を受けて、それに応える仕事をしてきました。つまり、つくるものや用途がある程度見えているところからスタートしていた。でも、自分たちから新しい材料をつくる場合は違います。「こんな機能を持ったゴムができました」と言っても、それを何に使うのか、どんな製品にするのかまで考えなければ、仕事にはつながらない。

抗ウイルスゴムをつくった経験から、僕らには材料をつくる力はある。でも、その先をどう形にして、どう伝えていくのかというところが足りないと感じたんです。

- そこで、デザインが必要だと考えた。

菅原 そうです。自分たちの技術を使って何ができるのかを、もっとわかりやすい形にして発信していく。そのためには、デザインの力を借りる必要があるんじゃないかと思うようになりました。

機能優先のネジを緩める

- そうしたなかで参加したのが、東京ビジネスデザインアワードだったのですね。

菅原 はい。東京都内の中小企業が持っている技術や素材に対して、デザイナーから新しい事業につながる提案を募る取り組みです。僕らも、自分たちの技術を使って新しいことをやりたいという思いはありましたが、何をどう形にしたらいいのかは、まだはっきり見えていませんでした。

ちょうどその頃、卵の殻をゴムに混ぜる実験もしていたんです。もともと取引のあったゆで卵の加工会社から、卵の殻が大量に廃棄されているという話を聞いたのがきっかけでした。「これをゴムに混ぜたらどうなるんだろう」と思いついた。せっかくやるなら普通のことをやっても面白くない、ちょっと振り切ったことをやってみたかったんですね。

- そこに、土井さんがデザイナーとして提案をした。東京ビジネスデザインアワードは、一般的なデザイン賞とは少し仕組みが違うのですね。

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soell株式会社代表取締役、デザイナーの土井智喜さん。東京都が主催、日本デザイン振興会が運営する「東京ビジネスデザインアワード」で、2023年度に江北ゴム製作所と出会った。同アワードでは、企業の技術や素材をもとにデザイナーが新たな事業や製品を提案する。

土井智喜(soell株式会社 代表取締役、デザイナー) そうですね。「アワード」という名前ですが、完成した製品を評価するデザイン賞というより、企業とデザイナーを結びつけて、新しい事業をつくっていくためのコンペティションに近いものです。

まず企業が自社の技術や素材を「テーマ」として提示して、それに対してデザイナーが事業のアイデアを提案します。審査を経て候補となった提案のなかから企業とのマッチングが行われ、そこから一緒に事業化を目指していきます。

- 土井さんは、江北ゴムのどこに可能性を感じたのでしょうか。

土井 江北ゴムさんは、ゴムを成形するだけではなく、配合からできる。それがすごく面白いと思いました。すでに卵殻を混ぜたゴムも試されていましたが、卵殻だけで一つの商品をつくるのではなく、いろいろな未活用の素材をゴムに混ぜることで、もっと展開できるのではないかと考えました。

ゴムは、いろいろなものを受け止められる素材です。そこに地域や企業から出る素材を組み合わせれば、それぞれ違った表情や物語を持った材料になる。一つの製品をデザインするというより、江北ゴムさんの配合技術そのものを、新しい事業として見せられないかと考えたんです。

- 菅原さんは、その提案を聞いてどう思いましたか。

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「Rebbur」を使ったプランターとシート。混ぜ込む素材そのものが独特のテクスチャーを生み、素材に応じた特性も加わる。

菅原 僕らがやりたいと思っていたことと、すごく合っていたんです。それまでのBtoBの仕事では、ゴムは機能が高いほどいい、長持ちするほどいい、という考え方が基本でした。もちろん、それは今も大切です。でも、自分たちで新しいものを考えるなら、そのネジを少し緩めてもいいんじゃないかと思っていました。

例えば、ものすごく長く使えることだけを目指すのではなく、違う素材を混ぜてみる。今までならゴムに入れようと思わなかったものを入れてみる。そうすると、これまでとは違うゴムの価値が見えてくるかもしれない。

土井さんの提案には、僕らが漠然と考えていたことを形にしてくれるものがありました。

逆転の発想から生まれた「Rebbur」

- そうして土井さんと開発したのが「Rebbur」ですね。

菅原 はい。「rubber(ラバー)」の綴りを逆から読んで「Rebbur」。逆転の発想でゴムの新しい可能性を考えてみよう、という意味を込めています。僕らが普段つくっている工業用ゴムは、求められる機能を出すためにいろいろな薬品を配合しますが、Rebburでは天然由来の素材を使うことにもこだわりました。

- ゴムの中に、これほど異なる素材を入れられるものなんですね。

菅原 そこが、うちが配合からやっているからできることだと思います。例えばRebburでは、未活用の素材を70%くらい、天然ゴムを30%くらいという配合もしています。ゴムは脇役なんですよ。それでも、ちゃんと曲がるし、ゴムらしい柔らかさが残る。

普通はゴムというと、均質で黒くて、機能を満たすための素材ですよね。でも、卵の殻を入れれば粒が見えるし、木を入れれば木の表情が出る。混ぜるものによって色も質感も変わります。ゴムが主張するというより、いろいろな素材を受け止めることで、今までとは違う表情が生まれるんです。

土井 面白いのは、ゴムだから曲げられることです。例えばタイルのように見えるものでも、硬い素材とは違って、曲面に沿わせることができる。混ぜた素材そのものは曲がらなくても、ゴムがつなぐことで全体として柔軟性を持たせることができます。

- 最初から、現在の6種類をつくろうと考えていたのでしょうか。

土井 いえ、いろいろ試しています。何を混ぜると面白いか、江北ゴムさんと一緒に考えていきました。素材によって粒の大きさも違いますし、混ぜたときと実際に成形したときでは色も変わります。ゴムは熱を加えて化学反応させるので、思っていた色にならないこともある。そこは菅原さんたちに配合を試してもらいながら、量や見え方を調整していきました。

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タイル状に成形した「Rebbur」。ゴムの柔軟性を生かし、曲面にも沿わせることができる。最下層は鉄粉を混ぜたもので、マグネットがつく。

- 土井さんは、素材を選ぶところから関わっているのですね。

土井 そうですね。ただ、僕が「これを混ぜてください」と決めて、それを江北ゴムさんにつくってもらうという関係ではないんです。「これは混ぜられるのか」「この素材ならどこから調達できるか」「もう少し量を増やしたらどうなるか」とやり取りしながら、一緒につくっています。

江北ゴムさんには、もともと「こんな材料をつくりたい」という意志がある。僕はそこに対して、どうすればその可能性が人に伝わるのかを一緒に考えている感じです。

Rebburは、江北ゴムを伝えるツールでもある

- Rebburは、最終的に何をつくるための素材なのでしょうか。

菅原 Rebburを使ったプランターやコースターなどの商品もつくっています。ただ、僕らはプランター屋になりたいわけではないんです。僕らがやりたいのは、ゴムにはこんなこともできる、江北ゴムならこんなこともできる、と知ってもらうことです。

でも、素材だけを見せて「うちは配合からできます」と説明しても、なかなか伝わらない。実際にものがあることで、「これもゴムなんですか」「こんなものも混ぜられるんですか」と興味を持ってもらえる。Rebburの自社製品は、そういう意味で僕らにとってのフラッグシップモデルでもあります。

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Rebburの開発をともに進める菅原さんと土井さん。

土井 Rebburは、新しいお客さんと出会うためのツールにもなっていると思います。普通の黒いゴムだけを持っていっても、なかなか話は広がらない。でもRebburがあると、まず「これは何ですか」というところから会話が始まります。

そこから相手がやりたいことを聞いていくと、最終的にはRebburではなく、普通のゴムのほうが適している場合もあります。それでもいいんです。Rebburをきっかけに江北ゴムさんの技術を知ってもらって、新しい仕事につながればいい。

- つまり、Rebburそのものを売ることだけが目的ではない。

菅原 そうですね。Rebburを通して、今まで出会わなかった人たちと出会いたいんです。これまでの僕らの仕事は、ゴムで困っている人から相談を受けて、それを解決することが中心でした。それはこれからも大事です。でも、それだけだと、そもそも江北ゴムを知らない人、ゴムで何かできると思っていない人とは出会えません。

Rebburを見て、「こんなこともできるんだったら、こういうものはつくれない?」と声をかけてもらう。そういう入口を増やしていきたいんです。

- 東京ビジネスデザインアワードをきっかけに始まった取り組みは、グッドデザイン賞の受賞にもつながりました。受賞によって変化はありましたか。

菅原 もちろん評価していただけたことはうれしいです。でも経営者なので、賞を取ること自体が目的ではないんです。実際の仕事や売上につながらなければ意味がないと思っています。

一方で、想像していた以上に大きかったのが社員への影響でした。「自分たちの会社がグッドデザイン賞を取った」と家族にも話せる。社員が会社を誇りに思うきっかけになったことは、すごくよかったですね。

それから、「江北ゴムって、なんか変わったことをやっているよね」と思ってもらえるようになった。そうすると、普通のゴム屋さんには相談しにくいようなことでも、「江北ゴムなら聞いてくれるかもしれない」と持ち込んでもらえる。それも僕らにとっては大きな意味があります。

- Rebburのような、まだ市場があるかどうかわからない取り組みに踏み出せたのは、なぜでしょうか。

菅原 それは、中小企業だからできることだと思います。大きな会社だったら、新しいことを始めるときに「どれだけ需要があるのか」「どれくらい売れるのか」というところから考えると思うんです。

でも僕らは、「これ、面白そうだからやってみよう」から始められる。僕自身、中途半端なことをやっても面白くないと思っているので、まずやってみる。もちろん、ずっと採算を考えなくていいわけではありません。でも、最初から市場の大きさだけで判断していたら、Rebburのようなものは生まれなかったと思います。

- 小さいからこそ、先に動ける。

菅原 そうですね。僕らは何万人も社員がいる会社ではないので、僕が「やってみよう」と言えば動ける。そのスピードは、中小企業の強みだと思います。 Rebburでゴムが主役になっているかというと、実際には30%くらいしか入っていない。むしろ脇役です。でも、その脇役がいろいろな素材をつないで、今までにないものをつくっている。それもゴムの可能性だと思うんです。

グッドデザイン探訪では、あるテーマを切り口にインタビューや仕事紹介の記事をお届けしていきます。今回のテーマは「中小企業パラドックス」。市場競争ではなにかと不利とされがちな中小企業*ですが、自由に発想できたり、意志決定が早くなったりなど、メリットもあるはずです。パラドックスとして、中小企業だからこそ生まれたグッドデザインを掘り下げます。 *資本金3億円以下、従業員総数300人以下の企業


素材 Rebbur

株式会社江北ゴム製作所

Rebbur(リバー)は、工業用ゴムメーカー・江北ゴム製作所が、デザイナーの土井智喜らと開発した新しいゴム素材である。卵殻や茶、海苔などの未活用材と天然ゴムを組み合わせ、素材そのものが持つ色や香り、質感を生かしている。未活用材を約70%、天然ゴムを約30%とする配合では、ゴムの柔軟性を保ちながら、混ぜ込む素材によって異なる表情や特性を生み出すのが特徴。鉄粉を配合して磁性を持たせるなど、素材の組み合わせによる用途の広がりも探っている。廃棄物の削減にとどまらず、これまでにないゴムの価値と可能性を提示している。


受賞詳細
2025年度グッドデザイン賞 https://www.g-mark.org/gallery/winners/33752?years=2025

デザイナー
土井 智喜


石黒知子

エディター、ライター

『AXIS』編集部を経て、フリーランスとして活動。デザイン、生活文化を中心に執筆、編集、企画を行う。主な書籍編集にLIXIL BOOKLETシリーズ(LIXIL出版)、雑誌編集に『おいしさの科学』(NTS出版)などがある。


白石ちえこ

写真家

町主催のモノクロ引き伸ばし講座を受講したのがきっかけで、写真を始める。写真家助手を経て、暗室で作品制作をしながら雑誌等の撮影を中心に活動している。

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