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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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この記事のフォーカス・イシュー

先端技術の応用

先端技術は未来の人をデザインするか?

2017.12.31


先端技術とは?

「先端技術」というのは、発明されたばかりの真新しい技術であることは誰も疑わないだろう。ただし、その先端性においては、何が新しいのか、どのくらい新しいのか、そして、誰にとって新しいのか?という点は、明確にしておくべきポイントだ。例えば2017年度の時点で、世の中を賑わせている先端技術といえば、AIやVRのような情報や映像分野におけるテクノロジーだ。また、ロボット、自動運転、ドローン、フィンテックなどの製造、移動、運搬、金融などの基幹産業を根本からくつがえしそうな技術も、社会実装フェーズを目前にして注目をあびている。

ただ、これらは先端技術か?というと、実は、そうではない。それぞれの技術は何十年も前に、大学や研究所などで発明され、プロトタイプが作られていて、今やっと普通の技術となって社会に出てきたものなのだ。1960年代に基本アイデアやプロトタイプがすでにあったVR技術はまさにその例と言える。

では、「先端技術」はどこにあるのか?それは、真理の追究や、非常に長い時間軸で研究や開発が目的の、一部の人しかアクセスできない大学や研究所などの特殊な場所で、利用され、試されている技術だ。ここでは、このような技術を「先端技術」に捉えたいと思う。

アカデミックな世界における技術

ところで、過去に私も審査に参加した2013年のグッドデザイン賞は、まさに「先端技術」祭りだった。「はやぶさ」、「アルマ望遠鏡」、「SACLA」が揃って受賞し、地球上最高クラスの観測機器施設が、人類の未来にむけた探求を担うプロジェクトとして、また、それらを支えるモノ作り、社会とのコミュニケーションの方法も含め、グッドデザインとして認められた年だった。一方、そのユーザーは、現在の地球上ではごくわずかで、「人とのインターフェース」というデザインの観点からすると、少し不思議に思った人がいたことも事実だろう。

現在目覚ましい発展を遂げている科学には様々な分野がある。宇宙や地球の深部など人類が到達していない場所を開拓するフロンティア、自然や生命の神秘と進化に迫るバイオ、資源や物質の限界に挑戦するエネルギーや新材料、そして人類の時間や空間の概念を広げる情報など、それぞれの分野でこれまでの「人類」の常識を揺るがすような発見、発明が日々行なわれている。各研究を支える技術は、ごくごく大まかに書くと「目で見えないものを見る技術」「極小物質を操作する技術」「時間、空間に逆らう技術」「物理法則に逆らう技術」「多くの情報を扱う技術」などがある。これらの技術とその発明は、年々加速度的に目覚ましい進歩を遂げ、人間が普通には認識できない、あるいは想像すらできないスケールに広がっている。しかし、それらが人とのインターフェースをもち社会で活用されることはまだまだ少ない。

先端技術が人とのインターフェースになるとき

デザインにおける先端技術の応用とは、研究分野で起きている人とはかけ離れたスケールの知識や技術を、人のスケールとつなぐことだと考える。デザインの役割は、先端技術と人とのインターフェースとなって、新しい産業やユーザーを生み出すことだ。そういう意味で、2017年度の受賞作には、わずかながら、先端技術が、今、生きている人とのインターフェースとなりつつあるものがあった。

「目で見えないものを見る技術」の応用としては、医療分野での検査機器として「超解像蛍光顕微鏡」「小型陽子線治療装置 MELTHEA(メルセア)」「歯科用3次元X線診断装置ベラビューX800」などが上げられる。これらは、巨大な設備が必要だったり、使用の難易度が高かったり、費用が高額であるなどの問題を解決し、利用施設とユーザーの幅を大きく広げ、技術の普及に貢献するものだ。また、「時間や空間の概念に逆らう技術」「多くの情報を扱う技術」の応用としては、360度の視界を日常的に記録するカメラ「THETA V」や、複雑な体内の状態を視覚化する「3次元画像解析システム、シナプスヴィンセント」がある。また「極小物質を扱う技術」の応用としては「乾式オフィス製紙機 PaperLab A-8000」がおもしろい例ではないかと思う。そして、大賞候補となった埋め込み型ペースメーカー「Micra™ 経カテーテルペーシングシステム」は、様々な技術とモノ作りの総合力によって実現された製品だろう。

人類の歴史は、発明と技術革新とともに、文明や文化による発展、あるいは戦争による破壊を生みだし続けている。遥か昔に言語や農業により文明を生み、エネルギーにより夜を昼に変え、動力を生みだした。そして、情報技術により、人間の認識や能力に変化をもたらし、人間や地球といった意識すらしなかった主体すら変わろうとしている。先端技術と人をつなぐことは、未来の人類を作ることに他ならない。自然法則と思っていた体や環境にすら人工的な操作が可能となり、人間そのものがデザインの対象となる時代、先端技術と人間のかかわりが深くなる時代だ。そんな時代であるからこそ、人とのインターフェースを作るデザインの役割と責任は極めて大きく、技術とデザインに対する新しい視点が必要ではないだろうか。

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内田 まほろ

キュレーター |日本科学未来館 展示企画開発課長

アート、テクノロジー、デザインの融合領域を専門として2001年より勤務。05~06年から文化庁在外研修員として、米ニューヨーク近代美術館(MoMA)に勤務後、現職。 企画展キュレーションとして「時間旅行展」「恋愛物語展」「The 世界一展」「チームラボ展」など多数。シンボル展示「ジオ・コスモス」のプロデュースでは、ビョークやジェフミルズとのコラボレーション企画を手がけるなど、大胆なアート&サイエンスのプロジェクトを推進する。慶応義塾大学大学院、政策メディア研究科修士。チューリッヒ芸術大学、舞台・展示空間学(セノグラフィー)修士。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時