この記事のフォーカス・イシュー
生活価値の発見
人類と科学の共存する生活価値
2017.12.31
現代社会の生活価値
『生活価値』という概念は、私たちの日常の『生活の質』、その豊かな時間の集積、それが『幸せな人生』に繋がる生活価値の意味と解釈している。私たちの日常生活は近年、インターネットによって大きな変貌を遂げ、科学的進歩は私たちの生活の在り方を変えている。現在では子供から老人までデジタル端末を所持し、その端末による意思疎通が常態化し、伝えたいことがあれば端末を操作し感情伝達も行う。子供たちもどんなサイトにもアクセスできるようになり、学習も遊びもデジタル化している。同時に子供たちを犯罪に誘導するような悪質な情報もインターネットの無限で深い階層空間では制限することは困難だ。仮想通貨や新しい社会インフラは次々に淘汰されながら、その進化の速度を増して私たちの生活の中に浸透していく。それが『現代社会の生活価値』の現実である。将来のデジタル化社会はこれから必然性を持って加速してゆき、AIやロボットなどが少子高齢化社会の労働力を補足しながら人間と共生してゆく社会構築が、人口減少を迎える日本には必要な命題となっていく。
しかしながら、デジタル化社会による人間性の欠如や家族や地域社会における人の繋がりの喪失は、これから迎える深刻な社会問題であり、その解決は私たちが子供たちの未来に残す大きな責任である。
日本固有の生活価値
日本には固有の『生活価値』が存在している。明治維新以降の西洋化によって日本の生活様式や伝統文化の多くは急速に私たちの日常生活の中から自然淘汰されてきた。しかしいまだに多くの日本固有の文化は私たちの生活の中にも地域社会の中にも色濃く残っている。特筆するならば、日本人の中に『日本文化の精神的生活価値』が今も残されている。長い歴史の中で受け継がれてきた生活文化、工芸文化、芸術文化が脈々と生き続けていて、これから日本文化の価値は世界の人々の生活や地域社会の在り方の指標となる可能性を持っている。日本文化の背景は国内だけで創られたものではない。2000年の歴史の中で中国や韓国などから伝承された文化、中世の時代には欧米の国々から多くの文化がもたらされ、日本文化と外国文化が融合しながら日本固有の文化へと醸成されてきた。この日本固有の生活文化がこれから世界を含めた社会生活を豊かにする生活価値としてグローバルな価値を持ってくると考えている。過去に日本に様々な文化を伝承した国々のほとんどには文化資産は消滅して残っていない。日本から世界の国々に伝承された文化を戻し、伝えることが世界に良い繋がりを生み出していく。
地域社会における生活
生活価値とは日々の生活の営みの人間的な豊かさを意味する。社会は人と人とが家族という繋がりを生み、そして人が繋がって地域社会を営んできた歴史がある。特に自然災害の多い日本では地域社会の繋がりが相互扶助を生み、日々の生活の営みに地域社会が影響を与えてきた。地域には独自の文化が生まれ、伝統として継承され、工芸や伝統文化として地域社会の繋がりが生活の中に豊かな時間と新しい価値を生み出してきた。そこでは地域全体が一つのコミュニティとしての営みを持っており、子供から大人、そして老人が共生する社会が存在していた。
「地域のよろず相談所 暮らしの保健室」は、高齢化した巨大団地の商店街の中に誰でも予約なしに無料で、医療や健康、介護、暮らし相談ができる場所を開設した施設である。これからの高齢化社会において地域に一人で暮らす高齢者に『心の安心と地域との繋がり』を生みだす取組みである。このような現代の日常生活における社会問題への『人の温もりのある取組み』は、孤独な高齢者には心強いことであり、地域に人の繋がりを生み出す新たな地域社会の在り方を創出する可能性を持っている。日本が失った地域社会を復興する取組みともいえる。
「福祉施設B`s ・行善寺」も同様に、石川県白山市という地域社会の中に福祉、医療、障害者の生活介護、保育園、そして交流施設としての温泉、食事処、健康増進施設などがあり、様々な年齢層の地域に住む人々が集う場所が生まれ、日常生活の中で子供たちと高齢者が触れ合うことができる、日本社会が喪失した地域社会に於ける人の繋がりを創出している。このような活動はこれからの社会生活の根本に対しての新たなデザインの在り方を示すものであり、現代社会の中で日本全国が抱える問題に対しての一つの回答といえるだろう。
日本の生活価値を世界に届ける
日本は世界の中で稀に見る手作り産業の宝庫である。繊細かつ精密な人間の感覚による物作りが産業の精度として製品を支えてきた。日本全国の隅々まで手作りの伝統産業が現在でも延々と営まれている。そのような長い歴史を生き抜いてきた多様で繊細な物作り文化は日本にしか残されていないものがほとんどである。製品のプロセスに人間の感性を持ち込むことで、人の息吹が吹き込まれた製品が生まれ、仕上げに人の手を加えることで、機械だけでは生み出せない触感のある工業製品を生み出すことができる。日本人の感性である繊細さをデザイン、仕上げに生かすことで製品に繊細な触感の感性が宿り、日本人にしか作れない価値が生み出される。生活価値の発見は、日本の長い歴史の中で固有の文化を継承してきた中に多くの根源的な特質を見出すことができる。日本固有の文化に目を向けることで新しい価値の発見があり、未来に繋がる新しい科学と歴史文脈のバランスの上に生活価値の創造があると期待している。
https://www.g-mark.org/gallery/winners/9de7149d-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9de70d62-803d-11ed-af7e-0242ac130002吉田 龍太郎
インテリアプロダクトプロデューサー |Time & Style 株式会社プレステージ ジャパン 代表取締役
インテリアショップ/Time & Styleを運営。ショップはオランダ・アムステルダム、六本木、二子玉川、新宿、南青山にて展開。オリジナルプロダクトは、自社工場をはじめ日本全国で製作。日本の美意識に根差した、本質的な豊かさのあるライフスタイルの実現を目指している。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時