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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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この記事のフォーカス・イシュー

ローカリティの育成

揺れる時代に「人間力」はどうするのか?

2017.12.31


デザインの「トレンド」

少し前まで「トレンド」は、デザイナーやマーケッター、雑誌の編集者やテレビのディレクター、はたまた広告代理店などによって「作られていた」。「次のトレンドはどこに?」「何を仕掛けようとしているのか?」。それらを先回りして知ることによって、自らの経済活動を有利に運ぶことができたのだ。

しかし今は違う。SNSをはじめとした莫大な情報流通量は、消費者に自ら主体的に「何か」を選択する自由を与えた。その結果、生まれたのが「小さな民意」だ。

小さな民意には排他的なものもあり、時に対立軸を作る。離合集散して世の中を揺らす。その一方で世の中を俯瞰する目を人々に根付かせた。「美しい」とか「使いやすい」といった価値観は様々である、という目を消費者が持ったのだ。

「小さな民意」とその「中間」

そのような環境下で画一的なトレンドを作り出すことは極めて困難だ。逆説的に見れば、全国に共通する「特効薬」を探すことも困難ということになる。

「ローカリティーの育成」という観点から考察した時、ローカリティーとはその地域の「個性」に他ならない。個性の育成、すなわち個性を伸ばすといえば簡単に聞こえるが、地域の個性は「小さな民意」の集合体であり、さらに地域経済の利害と複雑に絡みあって、絶えず揺れているのだ。

そんな視点からグッドデザイン賞のデザインを見ると、いくつかのキーワードが浮かび上がってくる。例えば美しさと雑多の「中間」、ビジネスとボランティアの「中間」、公共性と個の「中間」…。「中間」には人々の意思と現実的な生活世界とが集約されている。つまり「小さな民意」をいかに汲み取り、表現するかが、大きなテーマになっているのだ。

ただし、ここでいう「中間」とは、日本人らしく「間をとった」わけではなく、足して2で割ったわけでもない。そこにはクリエイティブワークの対象として、新たな「創造」のプロセスがある。

記憶へのリスペクト

そして「中間」を「創造」へと導く際に、重要と思われるキーワードが「記憶」へのリスペクトだ。金賞を受賞した「福山市本通・船町商店街アーケード改修プロジェクト」は、あえてアーケードの柱、つまり「記憶」を残し、新しい形へと昇華させた点が評価された。つまりこのプロジェクトは、過去と現在の「中間」であり、美しさと雑多の「中間」。中間でありながら中庸ではなく、強い個性を発しているのである。

石川県白山市の福祉施設「B`s・行善寺」も地域と社会を俯瞰し、その新しいバランスの取り方を地域社会に提案している。高齢者デイサービス、障害者介護施設、保育園などが敷地内に集まり、さらに健常者も利用できる天然温泉やレストランを「ごちゃまぜ」にすることで、様々な交流を生んでいる。しかしこれも考えてみれば、一昔前の大家族時代、そして地方の集落では当たり前だったこと。つまり「記憶」へのリスペクトが、新たな創造を生んでいるのである。

群馬県の「太田市美術館・図書館」も、雑多な街へのリスペクトが新たな「創造」を生んでいると言ってもいいのではないだろうか。街づくりといえば、計画された景観こそが美しいと考えられている一方で、新旧様々な街ほど有機的という考え方もある。この建物は外観もさることながら、内部を歩くと、今まで便利だと思われていた画一的な利便性が、新たな発見や体験、人々の融和や理解を妨げていたことを実感するのである。

表層的なキーワード

ところで、デザインを単純にグラフィックやプロダクトといった表出として捉える人々は未だに多い。もちろん人の感性に訴えかけるグラフィックやプロダクトなど、「形」を追求することもデザインであることに間違いない。しかし表層に現れる「トレンド」ばかりを探すと本当の流れを見誤る。

例えば「リノベーション」という言葉。2016年の金賞受賞作「ホシノタニ団地」に代表されるように、近年たくさんのリノベーションされた建物がグッドデザイン賞を受賞している。しかし今年のBEST100にリノベーションという手法をとった作品がないのを見て、「時代は終わった」と考えるのはあまりに表層的すぎる。

問題解決のプロセス

私は「デザイン」を「問題解決のプロセス」と考えているが、福山市のアーケード改修も、B`s・行善寺も、太田市美術館・図書館も、そしてホシノタニ団地も、社会的問題を解決、または解消を目指すためのプロジェクトであり、共通するキーワードが明らかに存在する。そのような視点で見れば、「函館西部地区バル街」や「暮らしの保健室」といった、造形的側面よりもプロセスメイキングとしての独自性が卓越している対象にも注目すべき理由は明らかだ。

「人間力」とその「深度」

東京オリンピックを控え、増大するインバウンド需要を受け、大都市では社会に蓄積する問題を忘れてしまうほど経済活動が活発だ。しかし郊外や、ましてや地方都市や農村部ともなると問題は山積みだ。

人間らしい解決力。これからAIが発達してくると、正確な「中間」を探し、人々の好む方向性を容易に見出せる時代がやってくる。しかしAIは、新しい形をアウトプットする「創造」は苦手だ。「記憶」へのリスペクトもない。優れたデザイン、クリエイティブワークとは「人間力」に他ならない。そして人々はその「深度」に共感する。つまり人間らしい創造を伴った問題解決思考こそが「デザイン的思考」なのだ。

https://www.g-mark.org/gallery/winners/9de38961-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9de70d62-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9de3957c-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9de8ca3a-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9de7149d-803d-11ed-af7e-0242ac130002

岩佐 十良

クリエイティブディレクター |株式会社自遊人 代表取締役

東京都出身。武蔵野美術大学在学中の1989年にデザイン会社を創業し、のちに編集者に転身。2000 年、雑誌『自遊人』を創刊。2004年には拠点を東京から新潟・南魚沼に移転。そのライフスタイルが注目され「情熱大陸」などに出演。2014年、新潟県大沢山温泉にオープンした「里山十帖」では、空間から食まで全てをディレクション。シンガポールグッドデザインアワード受賞、グッドデザインBEST100に選出される。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時