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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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受賞者インタビュー

「2018年度グッドデザイン賞」を考える

おてらおやつクラブ 貧困問題解決に向けてのお寺の活動

2018.12.31


お寺で余ったお供え物を、ひとり親家庭のために

おてらおやつクラブは、生活に困窮する家庭の子供たちに、お寺のお供え物をおすそ分けしようというNPO法人です。お寺には、仏様やご先祖様へのお供えのお菓子や食品がたくさん集まります。しかし、あまりに量が多いと、お寺でも持て余してしまうことがあります。このようなお菓子や食品をひとり親家庭に配ることが、お寺にとっても子供たちにとっても問題解決になるのです。なぜなら、ひとり親家庭のうち約半数が経済的に困窮しているという現実があるからです。「お寺の“ある”を社会の“ない”とつなげる」のが、おてらおやつクラブのテーマです。

こうした活動を始めたきっかけは、2013年に大阪で起こった母子家庭の親子の餓死事件でした。日本国内にも深刻な貧困問題があることを知らなかった私たちは、そのニュースに大きな衝撃を受けました。そこで、事件をきっかけに立ち上がった大阪の貧困支援団体に、お寺へ寄せられたお供えのお菓子や食品を届けたのです。その後、支援団体の方に話を聞くと、それらを受け取った子供たちやお母さんはとても喜んでくれたそうです。しかし貧困状態にある家庭は多く、すべてに配布するにはまったく足りないという話がありました。知り合いのお寺に声をかけて、お供え物を送ってもらうようにしたのが、おてらおやつクラブの始まりでした。

敷居を下げて広げる仕組み

私たちは、全国のお寺、子供を支援する団体、公的機関などを訪れて、おてらおやつクラブの説明会を行っています。そして、お寺と支援団体に登録してもらい、それらを地域ごとにマッチングさせていくのです。登録したお寺は、近隣の支援団体にお菓子や食品を送り、団体がさらに各家庭に必要なお菓子や食品を配るという仕組みです。おてらおやつクラブの事務局は全体のマネジメントや広報活動を行い、お寺を会場にしてお供え物の発送会などを開くこともあります。

この仕組みでポイントとなるのは「参加しやすい」ことです。絶対に守らなければならないルールはなく、お菓子や食品を送ってもらうのは「ある物を、ある時に、ある分だけ」で構わないので、お供え物があまり多くないお寺でも参加できます。毎月でも、お盆だけでも、また複数のお寺で持ち寄って用意するのでもいいのです。お寺の掲示板におてらおやつクラブのポスターを掲示したり、募金箱を置いてもらったり、檀家さんと子供の貧困問題について話し合うだけでも、参加の意味があると考えています。

おてらおやつクラブは、どの宗派のお寺でも参加でき、仏教以外の宗教団体も参加しているほどです。活動を広げていくために、敷居を下げ、開かれた体制にすることはとても重要です。おてらおやつクラブをNPO法人にしたのも、同じような理由があります。自治体や企業は、宗教団体の活動に協力してもらえないケースもあるのです。NPO法人には自治体の認証が必要なので、事務局のあり方や活動の意図も明確になります。活動の進捗度やその成果を客観的にとらえることは、私たちにとっても重要です。

さらに、宗教ということから一般的に持たれるイメージを払拭する狙いもあります。このような意図に基づいた仕組みづくりは、社会の中にひとつの体系をつくるデザインといえるかもしれません。現在、日本には約70,000ものお寺があり、その中でおてらおやつクラブに登録しているのはまだ1,100程度。おやつを届けられた家庭も、全体の数%に過ぎません。時間をかけて、子供の貧困問題の解消が実感できるような成果を出していきたいと思います。

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仏教の価値観から、社会に問いを投げかける

もちろん、おてらおやつクラブは、お寺あってこその活動です。お寺へのお供えがなければ、この活動は続けられません。仏様やご先祖様にお供えをしようという信仰の気持ちが、すべての活動の原点にあります。だから私たち自身も、お供え物を受け取るのにふさわしい存在でなければなりません。

デザインにおいては、ヒューマン ・センタード(人間中心)ということがよく言われます。これは、人間にとっての機能性、快適性、使いやすさなどを第一としてデザインを考える姿勢です。人間中心の思想は悪いことではありませんが、あくまでも近視眼的であって、人間の寿命や思考の限界を超えることはできません。それに対してお寺は仏様センタードです。仏様を中心に長い時代を超えて受け継がれ、それを未来につなげようと日々努力しています。そして、お経に説かれているような完璧な世界を目指して物事を考え、実践しているのです。

今回、おてらおやつクラブがグッドデザイン大賞に選ばれたことで、私たちは社会に対して「問い」を投げかけられたことにも意味があったと考えています。お寺の中には、世俗とは違う価値観があり、それに基づいた行為や活動があります。それを広く投げかけて、考えてもらうことも、ずっと昔から仏教が行ってきたことなのです。

私たちは日々、仏様と共にあり、仏法に則って修行をし、苦しみから逃れる教えを説いています。しかしお寺の中にいると、どこにどんな苦しみがあるのかをリアルに知る機会が意外と持てないものです。おてらおやつクラブの活動を通して、私たちは修行で得たものを社会へと還元することの大切さに気づかされるようになりましたし、 「今を生きる」人に対して、私たちは何ができるのかを考え、実践することにもなっています。


松島 靖朗

特定非営利活動法人おてらおやつクラブ 代表理事 安養寺 住職

 


福井 良應

マーケティング・寄付相談担当 興山寺 副住職

 


土田 貴宏

ライター