この記事のフォーカス・イシュー
ローカリティを育む
関係欲求を持続させるローカリティのデザイン
2018.12.31
関係欲求を充たすローカリティの価値
最近の実感として、これまでの日本が先導してきた大量生産と大量消費のサイクルで経済を牽引していくことに限界を感じている人が多いと思います。さらに建築業界でも人口減少によって、これ以上のスクラップアンドビルドは不要という空気も広がり、建てることによるゼロイチとは異なるモデルが求められるようになりました。
都市部ではそれでも未だ旧来のモデルが健在なので、新しい暮らしの豊かさや、価値を見出そうとする人たちが、ローカリティに目を向けています。ここでの変化は、これまでの、土地やモノやお金を所有する豊かさから、コミュニティなど関係資本を大切にしたり、日本の風土や地域の文化などに暮らしを重ねる豊かさです。所有欲求は、手に入れた瞬間に次のものが欲しくなる欲求という意味で、無限の欲求であり、経済が好調なときは、もっと欲しいという欲求も満たせますが、現代ではなかなか難しいと思います。対して、コミュニティや地域と共に生きる関係欲求は、関係を持ち続ける時間自体が価値なので、時間を経れば経るほど期待値などが上がり、価値が増していきます。
そのようなロングテールな関係欲求を充たす、いわば源泉となるローカリティが必要だという考え方は、すでにさまざまな部分で定着しています。そのようなローカリティを「育む」という意識に基づきながら、人間の関係欲求が満たされ、豊かさが連鎖するような場や仕組みを作るデザインが増えているのです。
都市と地方を横断するローカリティ
「育む」という時間軸を伴った動きで特に興味深いのが[フードハブ・プロジェクト]です。複数の仕組みや取り組みがひとつの地域の中で有機的に発生し、スピーディーに展開し続けている、人々の関わりしろが多く積極的に加担していけるといった構造が特徴的なプロジェクトです。神山にいなくても、神山という地域に関われる状況を作り出している点も評価できます。一つひとつの産品や発信内容に文化や歴史が凝縮し、そこに日本の豊かさがあると気づかせてくれる点で、あらゆることが均質化しがちな都市にいながら、ローカリティの意義とその育成について意識することができる、優れた取り組みです。
[hanare]は東京の下町、谷中エリアの古い木造住宅に手を入れて上手に残し、地域性や時間軸を感じさせるホテルやカフェへとリノベートさせました。もともと谷中に存在していた銭湯やお惣菜屋などと価値観を連担しながら、ホテルの機能をうまくアウトソーシングさせた谷中の町中を歩くと、町が自分のものになった感覚さえ持てるでしょう。[OMO5東京大塚]は、宿泊施設の近隣住民が町を案内するサービスと観光プログラムが特徴で、ともにローカリティにひとつの価値があると表現している点が類似しています。
これら2つの事例に共通するのが、施設そのものの充実度を限りなく上げることで所有欲求を充たさせるより、関係欲求が充足されることを第一に、施設と町との境界を薄めている点です。町と機能をシェアしたり、積極的に関係を持つことで、居心地の良さを高め、町の変化と成長を見守るような帰属意識が醸成されます。ただし帰属といっても、すべての事象に関わる必要がなく、ユーザーの主体性を発揮できる設えとされているのも、むしろあらゆる人に対して寛容性を持つでしょう。
こうした、関わりを持つ範囲を自ら設定できるような寛容な状況をデザインしているといえるのが[喫茶ランドリー]で、繰り返しそこに関わることが価値になるような場の作り方が秀逸です。都市においてなにごともパッケージングされ提供されることに慣れた人に対して、この場は過剰なサービスを提供しない代わりに、近所のお母さんが店員として趣味のお菓子をつくって提供するなど他者と関係し続けられる、ちょっとした豊かさを感じさせてくれる状況を与えることで、日常の暮らしに新たな発見をもたらしてくれるでしょう。ある意味で放ったらかしにしてくれるようなデザインのあり方は、現代的なローカリティの育成につながるものです。
これらとは少し異なった観点からローカリティをとらえて、注目できるのが[Gogoro]です。都市における課題解決の手法として、システムの各要素が非常にしっかりとデザインされています。しかしそのデザイン自体を前面に打ち出すことなく、結果として人々の体験を促したり、ユーザーが積極的に関係性を作ることができるプラットフォームが築かれています。Gogoroはさらに、情報技術の巧みな応用によってさまざまなローカリティに応じられるフレキシビリティを備えていて、システムや多様なサービスへと今後展開していくことで、さらにトランスボーダーが起きうるように思えます。
「読み解き」と「融合」のオペレーション
建築の領域では、従来の都市計画や大型施設の建設においては、所有欲求を第一価値とするディベロッパー的発想の開発主導型が主流でしたが、町の特性や関係欲求を軸として考えるオペレーターの役割が重視されるケースが増えてきています。関係欲求で構築するビジネスをランニングモデルにしているWe WorkやAirbnbが次の都市を作る可能性もすでに見え始めています。デザインは生活文化や風土、習わしなどといったクラシカルな読み解きを深めつつ、新たに育まれつつある現代の価値観とハイブリッドさせる時間の設計を担うことが、ローカリティの豊かさを育むことにつながるのではないかと思います。
https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e00b983-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9df39a00-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dfbbdf9-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9df39716-803d-11ed-af7e-0242ac130002西田 司
建築家|オンデザイン
1976年神奈川生まれ。使い手の創造力を対話型手法で引き上げ、様々なビルディングタイプにおいてオープンでフラットな設計を実践する設計事務所オンデザイン代表。「ヨコハマアパートメント」で、JIA新人賞/ヴェネチアビエンナーレ日本館招待作品・審査員特別表彰、「ISHINOMAKI 2.0」で、グッドデザイン復興デザイン賞/地域再生大賞特別賞、島根県海士町の学習拠点「隠岐国学習センター」など。著書に「建築を、ひらく」「オンデザインの実験」。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時