この記事のフォーカス・イシュー
学びを高める
AIという他者との学び合いを最大化する
2018.12.31
学びにおけるAIの役割
学びとは能動的な行為であり、学びのデザインという観点では、e-learningなど情報技術を使って学びの手段を拡張すること、そして空間やファシリテーション、そして子供から高齢者までを包摂できる体系といった、ソーシャルな環境のデザインにより学びの機会を高めること、これら2つの軸が近年注目されてきました。
そして、今回は人工知能(AI)を活用したプロダクトやプロジェクトが社会に実装されるようになってきたことで、上記のような能動的な学びとAIとの相性の良さが認識され始めたタイミングだったように思います。
タブレット向けラーニング教材[“Qubena(キュビナ)”]は、算数と数学に特化して個々の生徒の弱点をAIが分析し、学習度に応じた学びのフローを提示する、「アダプティブ・ ラーニング」を志向したアプリ教材です。スマートフォンアプリの[Japanese Language Training AI]は、外国人向けの日本語会話トレーニング支援サービスで、独自開発したサポートAIにより、表現したい会話を自由に作成できるだけでなく、発音や言い回しまで最適な表現を提案することを可能にしています。これらはAIという情報技術を能動的な学びに活かそうとする昨今の潮流に位置付けられる事例でしょう。
AIという「他者」から学ぶ、という視点
一方、AIを活用したプロダクトやサービスが普及する中で、AIが人間には持ちえない「視点」で物事をとらえられることに注目が集まっています。思想家のケヴィン・ケリーはこのようなAIの側面を「Artificial Intelligence(人工知能)」ではなく「Alien Intelligence(エイリアン・インテリジェンス)」、つまり「エイリアン(異世界、異質)の知能」と定義しています。ただAIを情報技術として活用するという視点だけでなく、人間には持ちえない「他者」の視点として活かしていくという視点です。このような視点でみると、いま人間が最も学びを得られる存在としてAIをとらえ、AIからの人間の学びをいかに最大化できるかを、デザインのテーマとしてとらえることが今後重要になってくるのではないか、という予感があります。
この観点から注目したのはソニーの[aibo] です。クラウド上のAIにつながり、学習し続けることを可能にした個々のプロダクトが、人間にどのような影響を与えるか、もしくはお互いにどう影響し合えるか。特にこのaiboは、いわば「成長するプロダクト」として、プロダクト自身が欲求を持った存在として振る舞いオーナーと接する点で、人間とAIの間でインタラクティブかつ豊かな関係性を結べる可能性を強く感じさせます。その成果はまだ出ていないですし、どのように発展していくかも未知数ではあるものの、aiboから人間が学び、一緒に成長していけるのであれば、人間とAIの未来の関わりに対するひとつの指標となるでしょう。
より直截的な例として、NHKスペシャル[AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン] では、AIがどのような回答を出すのか、そもそも出せるのか否か、というAIの「視点」自体に注目しています。AIに質問を投げかけて分析させ、その結果から導きだせたことやフィードバックできたこと、あるいはできなかったことを、人間が正否を判断するのではなく、検証することによって、社会がAIと協働する可能性を見出していこうとする方法論が興味深く感じられます。
どちらも、広い意味でのAIからの学びの効果や、互いに与え合う影響をいかにポジティブなものにできるのかを、具体的に模索しているデザインとして、新しい試みといえます。
AIにおけるデザインの役割
日本が直面する大きなテーマである少子高齢化・人口減少の問題ひとつに着目しても、今後AIと人間との協働が不可欠なことは明白です。他方で、AIと人間の関係性という課題にいち早く取り組める日本にはアドバンテージがあるという見方も可能です。
AIの社会的な醸成度を高めていくために、AIのアルゴリズム開発者も、広義のデザイナーととらえられます。すでにAIを活用したサービスやプロダクトにも、当然のようにUI / UXのデザインがあり、ここにはデザイナーが関与している場合もあると思います。しかし、今後はそれだけでなく、AIのあり方やAIと人間との関係性自体もデザインの対象と位置付けられるようになるでしょう。ここではAIの本質的な危険性や人間の尊厳の確保といった倫理やルール・法律、そして昨今注目され始めている「ウェルビーイング設計」といった総合的な観点からのデザインが不可欠です。
社会的弱者や、社会的マイノリティなどの存在を通じて、社会の課題を発見しその解決に向けて働きかけていく「インクルーシブデザイン」というデザイン思想・手法が注目されていますが、AIという「他者」の存在を通して社会課題を発見していくことも今後考えられるでしょう。「collab with AI、corporative with AI」といえるようなAIとの協働・共創が、人々に能動的な学びの機会を提供し、創造性を膨らませる源泉となれば、それは私たち人間にとっても有益です。AIのデザインはそのようにあるべきだと思います。
https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dfe7f01-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9de97582-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9df096c4-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dfe442d-803d-11ed-af7e-0242ac130002水野 祐
弁護士|シティライツ法律事務所
弁護士(シティライツ法律事務所)。Arts and Law理事。Creative Commons Japan理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(リーガルデザイン・ラボ)。その他、FabLab Japan Networkなどにも所属。IT、クリエイティブ、まちづくり等の先端・戦略法務に従事しつつ、行政や自治体の委員、アドバイザー等も務めている。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート)、『オープンデザイン参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(オライリー・ジャパン、共同翻訳・執筆)など。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時