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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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この記事のフォーカス・イシュー

働き方を変える

目に見えないもののデザインが働き方を変える

2018.12.31


人と社会の幸せな関わり方を考える

「働き方」とは突き詰めれば、人と社会がどのようなスタイルで相互作用を及ぼすかという「関わり方」であると言うことができます。

終身雇用や年功序列が一般的だった時代から、働き方をめぐる人と社会の関係性は加速度的に多様化し、流動化しています。

例えばYouTubeやSNSで発信してアフィリエイトで稼ぐことが社会とのひとつの関わり方=働き方として認知されるとは、少し前には考えられなかったことではないでしょうか。さまざまな「働き方」が生まれ、消えていく中、人生や仕事のスタイルもまた絶え間なくゆらぎ、消費されています。

一方、昨今の「働き方改革」や「ワークライフバランス」の議論の多くは、従来型の働き方を前提とした時間とお金の議論に終始しており、変化のスピードに対応しきれていないように感じます。

多くの人や企業が「働き方」のあり方について悩んでいる中、人と社会がどのようにつながり、どのような関係性を作れば「幸せ」になるのかというロールモデルを示唆するデザインの力が求められていると考えています。

2018年、働き方のデザインの2つの方向性

2018年のグッドデザイン賞の審査を通じて、デザインにより働き方を変える試みには2つの方向性があると思いました。

ひとつはテクノロジーによる多様な働き方の実現に向けた加速です。たとえばクラウドサービス[Dropbox Paper]は、クラウド型の働き方を支えるインフラとして、働く場所や時間からの解放を可能にするデザインを提供しています。

もうひとつが、人と社会の関わりを持続的に成長させるための、つながりの「幅」と「強度」を生み出すデザインの提案です。

宿泊施設[hanare]は、従来の宿泊施設が自社の施設内でチェックイン・飲食・入浴などのサービスを完結させることが前提となっている中、東京・谷中という町に点在する空き家や銭湯に宿泊施設の「幅」を広げ、ゆるいつながりを作っています。このゆるいつながりはまた、町の人々に地域における新しい働き方を提供するきっかけを生み出しています。

[マルチタスクオペレーションの活性化ワーキングポイントプロジェクト]も好例です。社内業務を部署の異なる社員同士でシェアするサービスなのですが、仕事の対価として金銭的な価値を提供するのではなく、他部署を手伝う時間的な負荷を、休暇という時間的な価値で返す点がすごく斬新だと思いました。人と社会の関わりをお金ではない対価に転換することがかえって、つながりの「強度」を高めていることに新しい可能性を感じます。

目に見えない価値のデザインが働き方を変える

人と社会が従来の枠組から幅を広げながらも、一定の強度を保って関わり続けるためには、つながりを成り立たせる基盤、すなわちコミュニティに通底する「ストーリー」が必要となります。

日本酒[X01]は、農業機械メーカーのヤンマーと日本酒メーカーの沢の鶴、そして米農家が協力し、酒米の開発から新しい日本酒を誕生させたプロジェクトです。

農業のバリューチェーンの異なる位相で事業を行なっている三者が、それぞれ一歩ずつ進んで新しい取り組みにチャレンジすることができたのは、日本の米作りや農業を変えたいというストーリーに対する共感とコミットメントがあったからだと思います。この共感とコミットメントがもたらした意識変革が、関係者の働き方を変え、組織を超えたつながりを生み、新しい商品を創造することを可能にしたのです。

働き方の変革を促すストーリーを築いていくには、もうひとつ大事なポイントがあります。それは目に見えない価値をデザインするということです。

普段の働き方において大事にされやすい価値は、目に見えて肌触りがある、例えばお金といったものや時間などかもしれません。しかし人が社会との新しい関わりに挑戦するとき、その行動をドライブするのは「やりがい」 「安心感」「達成感」など、言語化・形象化が難しい価値だったりします。

アプリケーションサービス[Craft Bank] は建設業界で職人と職人を探している企業のマッチングサービスを提供しています。マッチングを成功させるためには、時給などの物質的な条件以外に、知らない者同士でも信頼できるという心理的な条件を担保することが大事です。今後、同サービスがいかにこれらの条件をクリアし、目に見えない価値を提供できるかについて注目していきたいと思います。

人がどのようなことに信頼を寄せ、共感を覚えるのか。社会とどのような関わり合いを持ちたいと考えるのか。そして時代の変化とともに人が信頼するものが変わったとき、その変化に合わせる形で仕組みをどのようにアップデートし、社会に反映していくのか。

このような目に見えない価値をたゆまなくデザインし続けようとする姿勢こそが、働き方に影響を与え、社会に幸せと豊かさをもたらすエンジンになるのだと思っています。

https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e0029fc-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dfbaca8-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e0074b8-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9dfc6220-803d-11ed-af7e-0242ac130002 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e007c23-803d-11ed-af7e-0242ac130002

長田 英知

ストラテジスト|Airbnb Japan株式会社 執行役員 ホームシェアリング事業統括本部長

東京大学法学部卒業。IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社、PwCアドバイザリー合同会 社等で戦略コンサルタントとして、スマートシティ、インフラ輸出、MICE戦略など都市・地域を切り 口とした新規事業戦略・サービスデザインに携わる。2016年9月にAirbnb Japan入社、2017年より 現職。著書に「プロフェッショナル・ミーティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)等。 *肩書・プロフィールは、ディレクター在任当時