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グッドデザイン賞で見つける 今、デザインが向き合うべき 課題とは

審査プロセスをとおして 社会におけるこれからのデザインを描く、 グッドデザイン賞の取り組み「フォーカス・イシュー」

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2023年度フォーカス・イシュー

「2023年度フォーカス・イシュー」を考える

いまなぜデザインに「勇気」と「有機」が求められるのか──2023年度フォーカス・イシュー テーマの背景意図

2023.10.25

「勇気と有機のあるデザイン」──今年度より、目的・プロセスとも刷新し、新たなスタートを切ったグッドデザイン賞フォーカス・イシュー。「デザインのシンクタンク」というビジョンを掲げ、受賞作の背景にあるデザインの“うねり”を捉え、年度ごと「テーマ」に据える。2023年度、一連の審査プロセスを経て定めたテーマが「勇気と有機のあるデザイン」だ。この言葉の背景に込められた意図を詳述する。


「デザインのシンクタンク」というビジョンを掲げ、今年度より新たなスタートを切ったグッドデザイン賞フォーカス・イシュー。

審査対象を横断的に見ていく中で捉えたデザインの“うねり”を言語化し、その年度を象徴する「テーマ」として言葉を設定。社会へと提案する切り口として掲げていくことになった。

そして審査プロセスを経て、2023年度のテーマとして掲げられたのは、「勇気と有機のあるデザイン」だ。

勇気と有機のあるデザイン:フォーカス・イシュー テーマ決定

フォーカス・イシューを担当したのは、正副委員長、フォーカス・イシュー・リサーチャーの計6名。6月の一次審査を皮切りに数ヶ月にわたり進行した審査プロセスの中で、通常の審査プロセスとは別に、すべての審査対象を各々の専門性や切り口から見つめ、“うねり”を探ってきた。

審査委員長であり本活動も率いる齋藤精一は、このテーマ設定の意図を次のように語った。

デザインとは未だ存在しないモノを創る役割から、今あるものを更に改善する役割が圧倒的に増えている。「なぜ」、「いま」、「私が」それを創るのか?そんな疑問がつきまとう中、勇気を持ってそれに対峙し、変化が絶えず予測もつかない明日に対応する有機的な思考と体制によって様々なデザインは社会をより良く時に小さな連続で、時に広く大きく変えている。そんなデザインの表と裏をしっかりとフォーカス・イシューで顕在化したい。

本記事では、フォーカス・イシューを担当した6名の議論を踏まえ、本テーマの背景に込められた意図をより詳細に紹介する。

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(左から)2023年度グッドデザイン賞 審査副委員長 永山 祐子、審査委員長 齋藤精一、 審査副委員長 倉本仁

「勇気」──挑戦を生み出し、後押していくために

「勇気と有機のあるデザイン」というテーマが導出されるにあたって、まず出てきたのが「勇気」というキーワードだった。

2023年度の受賞作の中では、インディペンデントなプレイヤーやチームはもちろんのこと、いわゆる大企業によるデザインも光っていた。

こうした受賞作には、共通していた点がある。それはインハウスデザイナーを中心に、商品企画や事業設計などの上流プロセスから一貫してデザインに関わった結果、生み出されたものだということ。

https://www.g-mark.org/gallery/winners/18596 https://www.g-mark.org/gallery/winners/14653

そして、「上流化するデザイナー」が大企業の中で成果をあげていくために求められるのが「勇気」だ。

プロジェクトを主導するデザイナーに、前例を打破して最初の一歩を踏み出す「勇気」が求められるのはもちろん、経営者や組織の側にも、そうした動きをを許容し、応援していく「勇気」が必要だ。

さらに言えば「勇気」は大企業のみならず、インディペンデントなチーム、あるいは地域に根ざしたプレイヤーも含め、新たな挑戦に踏み出すあらゆるプレイヤーに求められる。

さまざまなステークホルダー、プレイヤーが各々で、「勇気」を持って挑戦し続ける。

2023年度のグッドデザイン賞全体のテーマとして審査委員長の齋藤が掲げた「アウトカムがあるデザイン」は、そうした「勇気」が積み重なり、結実していくものだといえよう。

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(左から)2023年度グッドデザイン賞 フォーカス・イシュー・リサーチャー 林 亜季、野見山 桜、中村 寛

「有機」──個と組織、そして地域が絡み合う

そして、この「勇気」というキーワードに続けて、偶発的に生み出されたキーワードが「有機」だ。

最初に「勇気」というキーワードが提示された時、フォーカス・イシューチームの中に数名、「ゆうき」という音を脳内で「有機」と変換した者がいた。しかし、結果的には「有機」もまた別の側面から2023年度の傾向を言い表している、という結論に。いわば偶然によって生まれたキーワードが、核心をついていたのだ。

これまで日本の会社組織では、いわゆる「タテ社会」という言葉で言い表される構造から、会社や部署を超えて「ヨコ」でもつながる必要性が叫ばれてきた。

しかし、2020年代も中盤に差し掛かりつつある昨今、もはや上下左右あらゆる方向に、アメーバのように立体的に人と人とがつながることの必要性も指摘されるようになっている。さらには好きな時に離れて、好きな時に集うようなチームのあり方も提示されるようになる。

そうした時代の要請に応えて、「有機」的なつながりによって形成される組織が生まれ、「アウトカムがあるデザイン」を生み出すケースが現れ始めているのだ。

こうした「有機」的なチームが、インディペンデントなプレイヤーやチームはもちろん、大きな会社の中でも生まれてきつつあるというのが、2023年度の審査プロセスを見て導き出されたインサイトだ。さらには組織を超えて地域レベルでも、地域に根ざしたプレイヤーとも絡み合いながら、「有機」的なプロジェクト組成がなされるようになっていることが見て取れた。

https://www.g-mark.org/gallery/winners/20423 https://www.g-mark.org/gallery/winners/20409

一人ひとりのメンバー、一つひとつのチームに役割があり、さらに全体としてもまた役割があり、補完しあって変化していく。そんなフラクタルで、「有機」的な関係性によって、「アウトカムがあるデザイン」が生み出されているケースが多くあった。

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「勇気」と「有機」が織りなす運動体へ

「勇気」あるプレイヤーが、思い切って初動に踏み出す。周りのチームメンバーも、「勇気」を持ってその挑戦を応援し、サポートする。そうしたチーム全体の、さらにはチームを超えた組織や地域全体の「有機」的なつながりによって、見たこともないアウトカムを生み出す運動体になっていく──。

「アウトカムがあるデザイン」が生み出されるプロセスに対するこうした理解・分析が、2023年のグッドデザイン賞フォーカス・イシューにおいて定めたテーマ「勇気と有機のあるデザイン」の背景にはあった。

今後、こうした全体像の理解を前提として、正副委員長、フォーカス・イシュー・リサーチャーの計6名が「デザインのシンクタンク」として具体的なアクションを提案するレポートも発表する予定だ。

「新しく起こった“うねり”を次の日、次の年へとしっかりつないでいく。それこそが、これからのグッドデザイン賞、日本デザイン振興会に求められる役割なのではないか」──審査委員長・齋藤のそうした想いを出発点につくられるレポートにも、ぜひ期待していてほしい。

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小池真幸

ライター

編集者。複数媒体にて、主に研究者やクリエイターらと協働しながら企画・編集。


今井駿介

フォトグラファー

1993年、新潟県南魚沼市生まれ。(株)アマナを経て独立。