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「よいデザイン」がつくられた 現場へ

よいデザイン、優れたデザイン、 未来を拓くデザイン 人々のこころを動かしたアイデアも、 社会を導いたアクションも、 その始まりはいつも小さい

よいデザインが生まれた現場から、 次のデザインへのヒントを探るインタビュー

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今回のお訪ね先

株式会社ドリーム

「好き」をかたちにする(後編)

2023.11.09

今回の訪問先は、愛知県名古屋市に本社がある株式会社ドリームです。「SONAENO クッション型多機能寝袋」を開発し、2021年度のグッドデザイン・ベスト100に選ばれました。いざという時にすぐに使えるクッション型の寝袋は、これまでにない着眼点が共感を呼び、ヒット商品となりました。開発した石川ももさんは、もともと防災グッズマニア。好きな分野に携わる熱意をどう成功へのプロセスへと導いたのでしょうか。 前編はこちら


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これまでの市場にないニッチで多岐にわたる商品を開発する株式会社ドリーム。

意識はしても、備えていない

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一般的なクッションのサイズに畳むことができる一体型の寝袋なので、お気に入りのカバーをかけてリビングに置いておくことができる。

— 東日本大震災は未曾有の震災でしたが、2020年に行われた調査では、この震災により7割以上の人が防災への意識が高まったとしつつも、およそ4割の家庭で何も備えていないと答えています。頭で理解していても、実際に行動に移すにはハードルがあるのですね。

石川もも 災害は非常時です。日常からはかけ離れているので、少しでもそこに関心がないと、自分事ではない、今備えなくてもいいと感じてしまうのは、仕方のないことかもしれません。

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入社9年目。株式会社ドリームで企画とテレビ通販の営業を担う石川ももさん。

石川 震災当時、私は愛知県にいたので、被害はほとんどありませんでした。それから数年経って大学生になってから、仙台にボランティアに行きました。津波で流れてきたものが農地にも埋まっていたので、片付けて水田として復活させるという取り組みに参加したのです。日用品から思い出の品まであり「こういうものも流されてしまうんだ」と、拾い上げながら津波のすさまじさを追体験する思いがしました。

私は、市場調査と併せて、地域の防災センターを訪ねることを業務の一環として重視しているのですが、当事者の方の声をたくさん読んでいると、被害の実際がありありと目に浮かぶようになります。そういう経験を重ねていくと、本当にいつ何があるかわからない、と強く感じるようになるのです。

フェーズフリーの新潮流

— そして実際に、大きな自然災害が毎年のように発生しているので、決して他人事ではありません。そうした状況から近年は、平常時と非常時という二つの局面でとらえるのではなく、身の回りのものやサービスを非常時でも使えるようにあらかじめ機能を拡張してデザインしておく「フェーズフリー」という考え方が広がりつつあります。

「SONAENO クッション型多機能寝袋」は、フェーズフリーの製品ですが、非常時用に考案したものを普段からも使えるようにするという、従来型のフェーズフリーとは逆方向のアプローチとなっている点がユニークですね。

石川 子どもの頃から防災グッズが好きで集めてきた自分でも、普段はそれをしまい込んでいました。でも、この寝袋は実際に普段から使っています。ソファでお昼寝するときや、季節の変わり目で急に寒くなったときなどに重宝するんです。寝袋を広げればすぐにごろんと横になれるし、セーターを羽織るような感覚でブランケット代わりに使うこともできます。

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避難所での問題を防災アドバイザーと細かく検討し、丁寧につくり込んだことが商品の汎用性を高めた。

石川 発売後、社内のスタッフも気に入って購入してくれたのですが、誰かの家に泊まる時など、それぞれ自分で寝袋を持参して集まります。車中泊用にクルマに常備したり、自宅でゲスト用の布団として用意したりする人も多いんです。

お風呂にも入れないような過酷な避難所での使用を考慮し、洗濯機で丸洗いできるポリエステルを採用しましたが、手入れが簡単にできるので結果として使えるシーンが広がったと思います。

ヒントは過去の失敗のなかにもある

— 非常時の使い勝手を極めていった結果、日常でもより使いやすいものになったということですね。そのための創意工夫のひとつに、絶妙なサイズ感があります。45cm×45cmの通常のクッションサイズに、180㎝の男性でも使えるほどの大きさの寝袋がよく収まりました。

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下のグリーンの寝袋とグレーのクッションが完成品。上のブルーの寝袋は初期の試作品で、コンパクトに畳むことができなかった。

石川 寝袋は広げるとすぐに膨らんでいくので、試作の際は、元の形に戻すのに苦労しました。なんとかクッション状に折り畳んでも、カバー部のファスナーがはみ出た布を噛んでしまうのです。足も使って押さえつけながら、少しずつファスナーを閉めなければならず、収納するのに5分ぐらいかかってしまいました。

こんな状況では、クッション型をうたうことはできません。これが実際につくっていく際にぶち当たった最初の壁でした。でも、答えはすぐに見つけることができた。ボタンを3カ所、取り付けたのです。そうすると、ファスナーが噛むことなくスムーズに収納できるようになり、あっという間に片付けられるようになりました。

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内側の3カ所にボタンを設置することで、ファスナーの開閉がスムーズになった。

— ボタンを止めることでアシストするということですか。よく思いつきました。

石川 実は、過去のまったく別の企画から生まれたアイデアなんです。私はこれまで防災用品だけでなく、さまざまな企画を出してきました。そのひとつに水着があります。ふくよかな女性がすっきり着こなせるように、前開きで着脱する水着を企画したのですが、ファスナーを引き上げていく途中、腹部で噛んでしまい、スムーズに着ることができないということがわかったのです。

いろいろと試作をつくっていくなかで、そこに補助となるボタンをつけて腹部を抑えてあげればいいんだ、と気付いたのです。そうすると、一気にファスナーを引き上げやすくなる。ボタンの大きさや位置もあれこれ試して、水着を完成させました。

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水着の開発での試行錯誤が、寝袋の開発のヒントとなった。自ら考え対応した経験が次なるアイデアをもたらす。

石川 しかし、コロナ禍に発売したというタイミングの悪さもあり、残念ながら商品はヒットしませんでした。失敗したプロジェクトではありますが、そこで得た経験も無駄にしないで、次の企画のアイデアにすぐに結びつけることができたのです。

それからは、膨らみすぎるのを抑えるためにサイズを若干小さくしたり、枕の大きさを検討したり、コストも抑えるように調整したり……。本当に壁はたくさんありましたが、一つひとつ丁寧に乗り越えていきました。

クッションカバーがトートバッグに?

— この寝袋は「SONAENO」というブランド名で出しています。寝袋だけでなく、ブランド展開していくことも視野に入れているのですね。

石川 ブランド名は「いつもの便利と、もしもの備えを。」をコンセプトに、防災アドバイザーの髙荷智也さんと共に考案したものです。これに対し「クッション型多機能寝袋」という商品名は、端的に内容が伝わる「ド直球」のものにするべきと考え、名付けています。

ゆくゆくは10アイテムぐらいまで商品点数を増やしていきたいと思っています。この夏、その第一歩として、オリジナルの寝袋のカバーをつくりました。調べてみたところ、ポケットが付いたクッションカバーは市場にまだまだ少なかったんです。

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クッションカバーにポケットやストラップを付けるだけで、新たな用途が生まれる。何気ないようでなかなか気付かないアイデアである。

石川 そこで、外側には、日常で使うリモコンやスマホなどを、内側には非常時用に防災アイテムや常備薬、鍵などを収納できるように、合わせて4つのポケットが付いているカバーをつくりました。

しかも、もしもの時は、2リットルのペットボトルが6本入るほどの大容量のトートバッグに早変わりします。これひとつあれば、自分に必要なものがすぐにリビングから持ち出せるのです。

アイデアの創出には考える「くせ付け」が必要

— それは便利ですね。石川さんはアイデアが豊富ですが、どうやってアイデアを導いているのですか?

石川 就職する前からもともとアイデア商品みたいなものに興味があり、ニッチな問題を解決することが好きでした。加えて、今は大好きな防災グッズを開発できるようになったので、興味をもって周囲を見ているということが大きいのかもしれません。仕事先でも、遊びに行っても、目に留まり何か気になったことや心に響いたことがあれば、全部写真に撮っているんです。

— 常日頃「あれ?」と思ったようなものを写真に撮って、ストックしているということですか?

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石川 はい。プライベートな時間でも、よいものを見つけた時はもとより、気になったことや社会の課題のようなものも、「防災につながるかも」と、写真に撮ったりメモしたりして、ストックしています。

それは特別にアンテナを張っているつもりではなくて、好きでやっていることなので、まったく苦にはならないんです。ニュースを漠然と聞いていても、こういう悩みを解決できないのだろうかと、自然とアイデアを練っていく方向に考えてしまうんです。

— 株式会社ドリームは、豊かなライフスタイルを提案していこうという「ライフ・プレゼンテーション・アカデミー」をビジョンに掲げています。そのためのマーケットニーズを掴むためには、石川さんのように、日々、潜在的な需要を探っていくことが必要なのですね。

石川 社内では、毎週1回、新しい企画を出してそのコンセプトをプレゼンテーションすることがルーティンワークになっています。毎週のことなので、実際には、どうしようもない企画を出してしまうこともありますが、これは練習のようなもので、考える「くせ」を付ける効果があると捉えています。アイデアを考えることに慣れていないと、2時間唸っていても何も浮かんできませんから。

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考えるくせが習慣化すると、意識下に点在していたヒントも浮き上がって見えてくる。

— なるほど。まずは好奇心をもって、自分事として情報をストックすることが必要で、そこから点と点を結んでアイデアという線にするには、一定の考える訓練が必要ということですね。

石川 特に防災グッズに関しては、私は当事者になったことはないので、頭の中で困難にある状況をできるだけイメージできるように、地域の防災センターに行って火事が起きたときの演習を体験したり、被災者の話に耳を傾けるなど、さまざまな状況を想像できるようにしておくことが必要だと思っています。

— 今回、会社としては初のグッドデザイン・ベスト100の選出となりましたが、これまでもドリームの製品は「ボイストレーニング器具」や「バランスボール」など、度々グッドデザイン賞を受賞しています。

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2017年度グッドデザイン賞の「UTAETO(ウタエット)」は、消音機能と呼吸を制限する機能が付いたボイストレーニング器具。全力で歌うことができるとともに、呼吸筋も鍛えられる。

石川 グッドデザイン賞は、お客さまからの信頼や安心につながるもので、会社としても応募する意義は高く、事前に社内でグッドデザイン賞が掲げる「審査の視点」に合致しているかどうか検討してから応募しています。毎年受賞できるような商品を世に送り続けることで、信頼感を積み重ねていきたいという考えです。

— 最後に、石川さんの夢をお聞かせください。

石川 私が小学生のときは、東急ハンズに行き、防災グッズを買うのが何よりの喜びでした。この寝袋が東急ハンズで販売されるようになったときは夢心地で、本当にうれしかったのを今も覚えています。

子どもの頃から好きだったものを、やっとつくれるようになった。それがグッドデザイン賞として、つくりたかったものを評価していただいた。実際に売れていることも嬉しいことです。これからの夢は、SONAENOのラインナップを増やし、防災コーナーができるぐらいまで展開していくことですね。「わが家の防災グッズはSONAENOで揃えています」と、お客さまに言っていただけるようになったら、これ以上ない喜びだと思います。

グッドデザイン探訪では、あるテーマを切り口にインタビューや仕事紹介の記事をお届けしていきます。今回のテーマは「中小企業パラドックス」。市場競争ではなにかと不利とされがちな中小企業*ですが、自由に発想できたり、意志決定が早くなったりなど、メリットもあるはずです。パラドックスとして、中小企業だからこそ生まれたグッドデザインを掘り下げます。 *資本金3億円以下、従業員総数300人以下の企業


SONAENO クッション型多機能寝袋

株式会社ドリーム

災害大国である日本では、「備える」視点の製品はさまざまあるが、せっかく備えたものも非常時にしまい込んで取り出せないという事例も少なくない。SONAENOは日常の暮らしに溶けこむ備えを提案する新しいブランドで、クッション型多機能寝袋を防災のプロと共同開発した。普段は住まいや車の中でクッションとして使い、災害時には睡眠環境を整える寝袋となる。非常時に必要な機能を詰め込みつつ、日常でも使えるという新たな発想が評価された。https://www.mydream.co.jp/


受賞詳細
2021年度 グッドデザイン・ベスト100 寝袋「SONAENO クッション型多機能寝袋」 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e4a19f1-803d-11ed-af7e-0242ac130002

プロデューサー
代表取締役 大橋秀男

ディレクター
TVメディアプランニング 石川もも

デザイナー
R&D プロダクトデザイナー 三島眞由美


石黒知子

エディター、ライター

『AXIS』編集部を経て、フリーランスとして活動。デザイン、生活文化を中心に執筆、編集、企画を行う。主な書籍編集にLIXIL BOOKLETシリーズ(LIXIL出版)、雑誌編集に『おいしさの科学』(NTS出版)などがある。


若林聖人

写真家

高校でデザインを学ぶ。短大卒業後、デザイン事務所と写真スタジオを経て1999年に独立。広告をはじめ、多領域のクライアントとの仕事を重ね、ジャンルを問わない広範な写真を撮影する。