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グッドデザイン賞の “今”を届ける

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2023年度 グッドデザイン大賞 「52間の縁側」にみる、これからのデザインの役割

2023.12.18

今年度のグッドデザイン賞受賞展にて、「グッドデザイン大賞受賞記念トーク」や「地域の取り組み・活動デザイントーク」などのステージイベントが開催された。大賞受賞記念トークでは、ファイナリストプレゼンテーションでは語りきれなかった「52間の縁側」の建築や、デザインの考え方について語られた。


10月25日に行われた大賞選出会および、受賞祝賀会でグッドデザイン大賞が発表された翌日、審査委員長である齋藤精一さん、副委員長の倉本仁さんと永山祐子さんの3名と、大賞受賞者である有限会社オールフォアワンの石井英寿さんの「グッドデザイン大賞受賞記念トーク」が開催されました。

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2023年度 グッドデザイン大賞 「52間の縁側」とは

グッドデザイン大賞とは、その年に受賞したすべての受賞対象のなかで、最も優れたデザインに1件に贈られる内閣総理大臣賞であり、今年度は有限会社オールフォアワン / 株式会社山﨑健太郎デザインワークショップによる老人デイサービスセンター「52間の縁側」が受賞しました。

「52間の縁側」は、制度に頼るのではなく、地域で助け合う共生型デイサービスです。高齢者の方や子ども、そして地域住民の誰でも気軽に立ち寄ることができる居場所であり、困ったときに助け合える福祉の地域拠点となっています。

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施設には、カフェや寺子屋もあり、さまざまな人が行き交う「まち」のようなつくりになっています。また南北に細長いL字型の敷地には、「52間の縁側」の名前の通り、長い縁側と広い屋根下空間がひろがっています。

縁側がもつ、内でもなく外でもない「曖昧さ」の力

施設と地域をつなぎ、さまざまな人をつなぐというコンセプトを体現している「縁側」というアイデアがどのようにしてつくられたのかについて、石井さんと、建築家の山﨑さんには「忘れられている日本の文化を取り戻したい」という想いがあったそうです。

「52間の縁側」は、部屋の約半分が大きな縁側。縁側について石井さんは、「内でもなく外でもない不思議な空間」で、その曖昧さが日本の文化ではないかと言います。また縁側のほかにも土間や障子などの建築の例をあげながら、「外の人も自然と来られる、そんな曖昧さがある文化がとても好き」と語られました。

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部屋の約半分を占める縁側。大きな窓を開けると、外側の空間と地つづきになる。

縁側が施設の外側と内側を隔てる境界を曖昧にしているおかげで、一人ひとりの空間を保ちつつも、内側/外側双方のアクセスのしやすさを実現しています。

山﨑健太郎デザインワークショップのサイトでは、「境界」に対するアプローチとして、カフェとテラスの間の窓辺に設けられたデイベッド(ソファとしても使えるベッド)について紹介されています。このデイベットを設置する空間の寸法、また建具の種類、素材などにより、一人だけれど、他者と一緒に過ごせるような「居方」がうみだされているそうです。

引用元:https://ykdw.org/works/long-house-with-an-engawa/

人のつながり、人の尊厳を最優先する運営のデザイン

建物だけでなく、施設運営という視点でもコンセプトを体現するためにさまざまな取り組みが行われています。

例えば、地域の子どもたちに気軽に訪れてもらうために、駄菓子屋を設置したり、庭の池を一緒に掘るなどのワークショップも開催。ほかにも、同じく八千代市で子どもを支援する活動を行っている「NPO法人わっか」との連携を図ることにより、この地域での「遊び場」として認識されるようになっているそうです。

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またデイサービスや、子どもを預かる施設では「どう管理するか」や「どうリスク回避するか」が最も優先される傾向にあるなかで、オープンな施設であり続けるためには、人との関わりを大切に、コツコツと地域との関係性を築くことが大切だと語っていました。

「例えば、お年寄りが施設の外に出て行ってしまいます。出て行ってしまうからといって施錠はせずに、止める時は止めたり、出ていってしまうお年寄りについて歩く時もあります。ついて歩いているとそのうち本人もどうして出たかわからなくなって、頼ってくる(笑)そうすると縦並びだった関係が、横並びになり、一緒に帰ろうかとなる。 あとは地域に開かれていることによって、出ていってしまったお年寄りをみて「あ、あそこのおじいちゃんだ!」と気づいてくれ、連れて帰ってきてくれることもある」

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有限会社オールフォアワンの事業ホームページ

少しでもリスクがあることは「あれもこれもしてはいけない」と可能性を閉ざしていってしまうなかで、人との関係を築きながら、工夫をこらしながら運営しているそうです。

デザインによって失くしていたものを思い出す

人とのつながり、人の尊厳を最優先するための建築や運営のデザインには、「勇気」が必要であり、またその勇気ある一歩からひろがる「52間の縁側」の有機的な動きは、まさに今年度のフォーカス・イシューのテーマである「勇気と有機のあるデザイン」です。

副委員長の永山さんは「今年度は全体的にある種の便利さや、合理性を超える作品が多かった。例えば、時短グッズから、かかってしまう時間を楽しむグッズへと価値観が変化している。今まで切り捨てられて、失っていたものをもう一度取り戻そうとしているのを感じています」と語り、価値観の転換期であることについて審査委員長の齋藤さんも「今年度のファイナリストは、どれも手がかかるものだった。もう一度手をかける、使っている人も考える、そこに今のデザインの役割があるように感じました」とこれからのデザインの考え方について語られました。

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2023年度のフォーカス・イシューのテーマ

長い時間軸で考えるデザインへ

時間をかけること、手をかけることによって新しいつながりや発見がうまれることについて、「地域の取り組み・活動デザイントーク」でも「時間軸の捉え方」というキーワードがありました。

このトークセッションは、ユニット18 「地域の取り組み・活動」の審査委員である飯石 藍さん、田中 元子さん、水口 克夫さん、山出 淳也氏さんが登壇し、今年度の審査の過程でみえてきた傾向やポイントなどが議論されました。

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そのなかで、ユニットリーダーである飯石さんからは「地域の取り組みは1回やって成功、ということは多分なくて…。地域の課題を解決するために活動を継続することになると思う。そのなかで、地域のあり方も、時代によって変化する。

そこに対して、そういう時間軸で活動しているか、ひとつのイベントに対して、どれだけ今後のひろがりを考えられているか、そのプロセスや想いを丁寧に紡いでほしい」と長い時間軸で考えるデザインについて語られました。

地域の取り組み・活動のユニットだけでなく、各ユニットごとに今年度の審査の総評がグッドデザイン賞公式サイトに掲載されています。さまざまな分野の視点で、これからのデザインの目指す方向を感じることができます。ぜひご覧ください!

2023年度 審査ユニット総評: https://www.g-mark.org/learn/past-awards/gda-2023/review

大橋真紀

編集・執筆

ウェブメディア「.g Good Design Journal」の編集チームのメンバー。外部メンバーとして、コンテンツの企画や編集、執筆を行う。