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「よいデザイン」がつくられた 現場へ

よいデザイン、優れたデザイン、 未来を拓くデザイン 人々のこころを動かしたアイデアも、 社会を導いたアクションも、 その始まりはいつも小さい

よいデザインが生まれた現場から、 次のデザインへのヒントを探るインタビュー

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今回のお訪ね先

有限会社石和設備工業

会社の活動の先に社会がある (後編)

2026.7.31

埼玉県所沢市の「インフラスタンド」は、ショールームの発展形としてつくられた公共トイレです。石和設備工業代表の小澤大悟さんは、その出発点を「会社の未来を見据えた経営戦略だった」と語ります。前編では、人が集まる場としてのインフラスタンドと、その活動が企業や行政を巻き込みながらコミュニティへと広がっていく過程を紹介しました。しかし小澤さんが次に見据えているのは、防災とトイレの課題です。インフラスタンドは今、単なる公共トイレではなく、災害時にも機能する循環型トイレの実験場になろうとしています。

前編はこちら


なぜトイレ防災なのか

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西武池袋線「所沢駅」と西武新宿線「航空公園駅」の中間地点に位置するインフラスタンド。

- インフラスタンドの次の取り組みが始まっているそうですね。

小澤大悟(石和設備工業代表取締役) 今、一番力を入れているのが循環型トイレです。インフラスタンドを循環型トイレへ発展させる構想も進んでいます。まずは自分たちで運用しながら、利用人数や利用時間帯、水質、維持管理頻度などのデータを取っていこうと考えています。

トイレは建てて終わりではなくて、その後の維持管理がすごく大切なんです。特に災害時を考えると、断水や停電が起きたときにトイレが使えなくなる問題があります。

そこで、太陽光発電と蓄電池を組み合わせて循環ポンプを動かし、大きな電力に頼らず運用できる仕組みを考えています。停電時でもトイレを使い続けられるようにしたいですし、会社にとっても、万一のときに備えたBCP(事業継続計画)対策になります。普段は普通のトイレとして使えて、災害時にはそのまま機能する。そういう状態を目指しています。

- 災害時のトイレにはどのような課題があるのでしょうか。

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石和設備工業代表の小澤大悟さん。インフラスタンドではセンサーを活用して利用状況や設備の状態を把握しているが、最終的な清掃や点検、運営を支えるのは人の手だ。「結局は人なんです」と話す。

小澤 一度トイレが汚れてしまうと、衛生環境を元に戻すのはすごく難しいんです。断水していたら掃除する水もないし、停電していたら設備も動きません。汚物まみれになってしまったトイレを復旧させるのは簡単ではないんです。だから発災後にどうするかではなくて、最初から汚さないことが大事なんです。

- 携帯トイレの備蓄も進んでいますよね。

小澤 もちろん携帯トイレも大事なんですが、実際に災害が起きたときに初めて使うのは難しいと思っています。高校生に使い方を説明したことがあるんですが、説明書を見ながらでも正しく設置できなかったんです。一度やれば簡単なんですけど、災害時の混乱した状況ではなかなか難しい。だから僕は、日常から災害用トイレを使うことが大事だと思っています。

- 日常と非常時を分けないという考え方ですね。

小澤 そうです。普段は普通の水洗トイレとして使っているけれど、実は災害時にも使える。「災害用だから我慢して使う」のではなく、いつもと同じように使えることが重要だと思っています。それが僕の考えるトイレ防災の一つの答えですね。

循環型トイレという挑戦

- 循環型トイレとは、どのような仕組みなのでしょうか。

小澤 生物ろ過を使って排水を浄化し、再びトイレの洗浄水として循環利用する仕組みです。実は、この技術自体は新しいものではありません。長年研究されてきた技術ですが、社会実装には維持管理や運用の課題があり、なかなか普及が進んでいませんでした。

そんな中で、私たちの活動を知った研究者の方から「実際の現場で試してみないか」と声をかけていただいたんです。技術だけでは社会は変わりません。使う人がいて、維持する人がいて、初めて仕組みとして成立する。その実験の場として、インフラスタンドに期待していただいたのだと思います。

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インフラスタンドの塔内部。

- 維持管理まで含めて考えているのですね。

小澤 そうですね。循環型トイレも結局はフィルターが汚れますし、生物ろ過を使えばヘドロも出ます。だから設置して終わりではなくて、その後の維持管理を誰がやるのかまで考えないと成立しない。僕はそこを水道業界の新しい仕事にできないかなと思っているんです。

水道屋は工事をして終わりという仕事が多いんです。でも循環型トイレなら、設置だけでなく維持管理も必要になります。だから「設置と維持管理をセットで請け負う」という新しいモデルができるんじゃないかと思っています。僕ら自身も商品を持てるし、地域のインフラを継続的に支える仕事にもなるんじゃないかと考えています。

- インフラスタンドも、その実験の場になっているのでしょうか。

小澤 実際に運営してみると、どのくらいの管理が必要なのか、どのくらいのコストがかかるのかが見えてきます。一カ所で目の前だからできることもありますけど、これが離れた場所に何箇所もできたらどうなるのか。そういうことも含めて、今は試しながら考えている段階です。

データが未来をつくる

- 導入には利用状況の把握も必要になりそうですね。

小澤 そこはすごく大事です。生物ろ過はバクテリアの力で水を浄化する仕組みなので、利用状況に合わせて設計する必要があります。例えば避難所なのか、公園なのかで利用人数は全然違います。1年を通してどれくらい使われるのか、どの時期に利用が増えるのか、そういうデータを取った上で設計しないといけません。

- 理想となる状況を求めるのではなく、条件を明らかにしていくのですね。

小澤 そうです。全部データを取って明らかにしていく。例えば、一時間に100人使ったら少し水が濁り始めるかもしれない。でも、それが事前にわかっていれば問題ないと思うんです。大事なのは、どの条件なら安定して運用できるのかをデータとして示すことです。わかった上で導入してもらうのがいいと思っています。

透明な水が永遠に循環します、みたいな話ではなくて、どこまでできるのかをきちんと明らかにしたい。利用人数や維持管理の頻度も含めてデータを積み上げて、その特性を理解した上で導入してもらう。それが社会実装には必要だと思っています。

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「トイレのことを勉強しているとトイレ防災の課題が見えてくる。まちづくりに関われば、思いだけで動いて疲弊している人たちにも出会う。動いていると課題が見えてくるんです。その中で、自分が解決できるのはどれかと考え、『これだ』と思ったことに取り組んでいます」

小澤 どんなデータでもいいと思うんです。まずはやってみること。少しずつデータが集まってきたら、今度は専門家の方から「次はこんなデータを取ったらどうですか」という提案もいただけると思うんです。

- そこからさらに発展する可能性もありそうです。

小澤 所沢には「ところざわエリアプラットフォーム」という、事業者や行政、地域住民が集まるまちづくりの組織があります。それを活用し、大学や自治体とも連携しながら、地域のさまざまな場所で人の動きや利用状況を計測できるようになれば、地域課題をデータで可視化できる可能性も見えてくるかもしれません。そうして、所沢のあちこちで人の動きが可視化されたら、まちづくりの考え方も変わると思うんです。

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インフラスタンドを会場に開かれる「KAWAYA市」。地域の人々が集う場として定着しつつある。

人を巻き込む力

- インフラスタンドもそうですが、気がつくと行政や企業、地域の人たちが集まっています。人を巻き込むのが上手だと感じます。先ほどお話に出た「ところざわエリアプラットフォーム」でも、小澤さんが中心的な役割を担われているそうですね。

小澤 実は最初はお断りしたんです。仕事も忙しいし、循環型トイレもやりたいし、エリアプラットフォームまでとても手が回らないと思ったんです。でも再びオファーされて、その時に、商工会議所の方や、以前からまちづくりに携わってきた方々から『小澤さんがやるなら関わってもいい』という声をいただきました。そういう声を聞いて、断れないなと思いました。

僕は、自分にできることとできないことが結構わかっています。だから無理して抱え込まず、できる人にお願いする。そのとき大事なのは尊敬なんです。この人すごいなと思っているから、心から助けてくださいと言える。

- 心からの言葉としてお願いしているから伝わるのですね。

小澤 自分の体裁を守ることよりも、成果を出すことの方が大事です。僕のプライドは成果なんです。もちろん、ただ手伝ってくださいとは言いません。この先にどんな未来があるかを一緒に考え、WIN-WINになる提案をするようにしています。

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エントランスにはKAWAYA市をはじめ、地域とともに積み重ねてきた活動の記録が並ぶ。

- 小澤式のまちづくりの基本が見えてきた気がします。

小澤 まちづくりも同じです。今、同じような課題を抱えている自治体はたくさんあります。僕らが先に取り組めば横展開できるかもしれないし、将来的には事業化できるかもしれない。

僕がやりたいから一緒にやりましょう、ではなくて、その先に皆さんの利益がある状態を考えてから声をかけています。だから参加しやすいんじゃないですかね。

- 一度決めたら簡単には諦めない印象があります。

小澤 それはあるかもしれないですね。仕事ができる人は、選択肢がたくさんあるじゃないですか。でも僕は違うんですよ。循環型トイレもそうだし、コミュニティの可視化もそうですけど、自分の中ではもう絞り出したテーマなんです。

だから一点突破しかないと思っているんです。これが駄目だったから次はこっち、みたいにはなかなかならない。選択肢が少ないからです。だから諦めない。

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- 大変ではないですか?

小澤 もちろん大変ですよ(笑)。でも、ありがたいことでもあります。逃げ場があったら、たぶんそっちに行っちゃいますから。

- だから課題が見つかるのがうれしい。

小澤 トイレのことを勉強していると、防災の課題が見えてくる。防災を考えていると、今度は循環型トイレの課題が見えてくる。次の課題が見えているっていうのは、僕にとって結構うれしいことなんですよ。まだやることがあるということですから。今やっていることを続けていると、自然に次の課題が見えてくる。新しいことを探している感覚ではないんです。

- その課題を一つずつ形にしていく。

小澤 本当に僕一人でできることなんて、限られています。建築家の高橋さんもそうですし、研究者の方もそうですけど、自分にはできないことをできる人たちがいる。だから助けてもらいながら進めていくしかない。

僕は、すごいアイデアがあるわけでもないし、特別な能力があるとも思っていないんです。ただ、課題が見えたらやってみる。できないことはできる人にお願いする。その繰り返しですね。

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トイレの壁画は、かつてこの場所にあった所沢飛行場前駅の古写真をもとに制作された。背後には現在の西武線が走る。

小澤 インフラスタンドも、まだ完成したとは思っていないんです。コミュニティのことも、防災のことも、循環型トイレのことも、全部まだ途中です。でも、次にやることは見えている。それが今はすごくおもしろいですね。

- インフラスタンドは2024年度グッドデザイン賞も受賞しています。何か変化はありましたか。

小澤 やはりグッドデザイン賞はすごいと思いましたね。例えば日本トイレ大賞とか、建築系の賞だったら、業界の人は知っていても一般の人にはなかなか伝わらないじゃないですか。でもグッドデザイン賞は違う。「グッドデザイン賞を受賞しました」と言うと、「それはすごいですね」と反応してもらえる。みんなが知っている賞なんだと実感しました。

- 応募されたのは建築家の高橋さんですね。

小澤 そうです。僕だったら、建築ではなくコミュニティの文脈で応募していたと思います。でも高橋さんは建築として評価される可能性を見ていたんですね。同じインフラスタンドでも、建築という見方もあるし、コミュニティという見方もある。

今はさらに循環型トイレの話も進んでいます。循環型トイレが実装されたら、また違う景色が見えてくると思います。インフラスタンドはこれで完成ではなく、次の公共インフラを生み出す実験場になっているのです。

- ショールームから始まったインフラスタンドという取り組みは、コミュニティや防災へと広がり、挑戦は続いています。その空間を形にした建築家・高橋真理奈さんにも話を聞きました。

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インフラスタンド平面図

インフラスタンドの設計を担当した建築家・高橋真理奈さんは、2021年に所沢でシン設計室を開業した直後、小澤さんと出会った。

「小澤さんから、新築でトイレのショールームをつくりたいという相談を受けました。設備会社がトイレを起点に新しい取り組みを始めようとしている。しかも、中小企業が新築でショールームを建てるというのは、かなり思い切ったことだなと思いました」

さらに話を聞くうちに、高橋さんは、小澤さんが手がけていたトイレ空間のデザインや、その先にある構想に強い興味を抱いたという。

ただ、現地を見た高橋さんは、単にショールームとして公衆トイレを建てるだけでは、小澤さんが思い描く未来は実現できないのではないかと感じた。

「普通の公衆トイレをつくるだけでは、むしろ『暗い』『臭い』『汚い』というイメージから利用されず、近隣にとって迷惑施設のような存在になってしまう可能性もあります」

そこで高橋さんが提案したのは、トイレだけではなく、人が集まり、滞在できる広場を一緒につくることだった。広場には休憩できるベンチやカウンターを設け、キッチンカーを呼んだり、イベントを開催できるようにした。

「公衆トイレは積極的に利用される施設ではありません。だからこそ、イベントなどで人が滞在する状況をつくり、公衆トイレが利用されるシーンをあらかじめ用意することで、ショールームとしても機能すると考えました」

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夜になると建物全体が柔らかく発光し、街灯のように街を照らす。

さらに、夜は建物全体が街灯のように周囲を照らす。半透明のポリカーボネート外壁を通して光が漏れ、暗かった通りに安心感を与える。

高さのある塔状の形態にも意味がある。昼間は太陽熱による上昇気流を生み出し、換気設備を使わなくても臭気がこもりにくい自然換気の仕組みを実現している。「この場所を市民に認知してもらえるようランドマークとなる塔状の形とし、同時に自然換気を担う換気装置としても機能させました」

また、高橋さんは建物の基礎をあえて隠さず、ベンチやカウンターとして利用できるように露出させた。「水道工事の仕事は、道路の下や建物の中など、見えない場所に隠れてしまいます。でも社会を支えているのは、そうした見えないインフラです。基礎を見せることで、普段意識されない存在に目を向けてもらいたいと思いました」

インフラスタンドという名称も高橋さんの提案だ。目に見えないインフラに光を当て、人々が気軽に立ち寄るスタンドのような場所にしたいという思いが込められている。

完成後、インフラスタンドではKAWAYA市をはじめとするイベントが継続的に開かれ、多くの人が集まる場所になっている。しかし高橋さんは、その効果を過大に評価するつもりはないという。「正直に言うと、インフラスタンドができたから街が劇的に変わったとは思っていません。でも、それはインフラスタンドに限らず、建築一つで街が変わるというものでもないと思うんです」

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KAWAYA市の開催時には、多くの人が集まり、思い思いの時間を過ごす。

むしろ大切なのは継続だと高橋さんは語る。「こうした私設でありながら市民に開かれた場所が、一つ、また一つと増えていくこと。その積み重ねが街を少しずつ豊かにしていくのではないでしょうか」

行政だけが街をつくるのではなく、市民や企業もまた街の担い手である。自分たちの利益だけでなく、周囲や地域のことを考えながら場所をつくる。インフラスタンドには、そうした「パブリックマインド」の実践があると高橋さんは見る。

そして最後に、建築家としての責任についてこう語った。「建物を建てるという行為には、それなりの暴力性があると思っています。土地に新しいものをつくる以上、周囲の環境や風景を変えてしまうからです。だからこそ、その建物が街に少しでも良い影響を与えられるよう考え続けたいと思っています」

グッドデザイン探訪では、あるテーマを切り口にインタビューや仕事紹介の記事をお届けしています。今回のテーマは「未来福祉」。福祉は「しあわせ」や「豊かさ」を意味します。未来の社会をよりよくしたい。そのために、どのような壁を乗り越えていったのか。 先を見据えた未来へのデザインは、どこから始まったのかを語っていただきます。


公共トイレ インフラスタンド

石和設備工業/シン設計室

インフラスタンドは、埼玉県所沢市の水道工事会社・石和設備工業が、自社のショールーム機能を兼ねて整備した公共トイレである。トイレに加え、ベンチやカウンター、サイクルステーションなどを備え、通りがかりの人が気軽に立ち寄れる場として計画された。円形屋根や照明計画、自然換気などにより、公衆トイレに付きまといがちな「暗い・汚い・臭い」というイメージを刷新。さらにマルシェや地域イベントの会場としても活用され、地域コミュニティを育む新しい公共トイレのあり方を提示している。


受賞詳細
2024年度グッドデザイン賞 https://www.g-mark.org/gallery/winners/21075?years=2024

デザイナー
シン設計室 高橋真理奈


石黒知子

エディター、ライター

『AXIS』編集部を経て、フリーランスとして活動。デザイン、生活文化を中心に執筆、編集、企画を行う。主な書籍編集にLIXIL BOOKLETシリーズ(LIXIL出版)、雑誌編集に『おいしさの科学』(NTS出版)などがある。


白石ちえこ

写真家

町主催のモノクロ引き伸ばし講座を受講したのがきっかけで、写真を始める。写真家助手を経て、暗室で作品制作をしながら雑誌等の撮影を中心に活動している。

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