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「よいデザイン」がつくられた 現場へ

よいデザイン、優れたデザイン、 未来を拓くデザイン 人々のこころを動かしたアイデアも、 社会を導いたアクションも、 その始まりはいつも小さい

よいデザインが生まれた現場から、 次のデザインへのヒントを探るインタビュー

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今回のお訪ね先

株式会社アイシン/立命館大学

かるたから始まるオープン・イノベーション—SNS時代に子どもの安全を守るために

2026.03.19 【PR】

メッセージは、発するだけでは一方通行となってしまいがちです。特に、SNSや生成AIが日常に入り込むいま、子どもを取り巻く情報環境は大きく変化しています。だからこそ、大人たちが子どもの日常に視点を置き、受け取ったメッセージを自分ごととして考え、行動へとつなげていけるような「場」が求められています。 「性被害やっつけたるわファミかるた SNS編」は、こうした問題意識のもと、単発の啓発活動としてではなく、地域の催しの一要素として実践されてきました。産学連携にとどまらず、小学校やPTAと結びつくことで、取り組みは社会へと開かれています。 親子が声を出し、同じ時間を過ごすなかで、かるたは一方的なメッセージから共有される体験へと変わります。今回は、京都市立下鳥羽小学校での実践を取材しました。

前編はこちら


かるたは、親が自分の言葉で伝えるための、きっかけ

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1月10日に下鳥羽小学校で行われた地域イベントの現場から。「ファミかるた」の絵札は、立命館大学の学生が描いたもの。札の句は、「うそつきは ぶんしょうだけでは わからない」など、日常のやりとりの中で立ち止まるための言葉が並ぶ。学生たちが子どもの性被害について自ら調べ、議論を重ねた内容をもとに制作された。

― 下鳥羽小学校では、餅つきや車両展示など、親子が集まる地域の催しのなかで、かるた大会も実施されています。子どもに向けた啓発を、楽しい場で届けようという意図でしょうか。

山田貴子(立命館大学大学院 経営学研究科) この取り組みは、子どもに一方的に教えることを目的としたものではありません。あくまで、親が子どもと向き合い、言葉を交わすきっかけをつくるためのものです。私たちは一貫して、「大人と子どもが一緒に考える」ことを大切にしてきました。

子どもの性被害についての教育は学校で行えばよい、と考える親は少なくありません。けれど実際に被害に直面したとき、最も大きな衝撃を受けるのは、子どもとその家族です。だからこそ、親が自分の言葉で子どもに伝えるための「場」が必要だと考えました。その入り口として選んだのが、「親子で遊ぶ」ことから始まる、かるた大会という形式です。

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このプロジェクトの発案者である立命館大学・山田貴子さん(右)と、パートナーとして取り組みに伴走してきたアイシン・鈴木研司さん。共にキャラクターに扮して登場、題して「鈴木こども博士と助手の山田のカルタ大会」。子どもの安全を軸にした地域イベントの一環として、人が自然と集まり、関わりたくなる「楽しい場」をつくることを大切にしていると二人は語る。

山田 「家庭で教えることが大切なんだ」と前面に出しても、なかなか参加のきっかけにはなりません。そこで、「親子で楽しめるかるた大会です」と呼びかけています。下鳥羽小学校のPTAが主催する新年の餅つき大会と連携したイベントで、体験した親子から「また参加したい」という声が寄せられ、昨年に続いて今年も実施されました。

子どもは、楽しかったら自然に学びます。一方で、どう向き合えばよいのか迷っているのは、むしろ大人の側です。それに気づいた親が、「一緒に考えたい」と、ほかの親にも声をかけるようになり、それがいまの広がりにつながっています。

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教わらなくても誰もが遊べるかるた。小さな子どもに年長者が札のある方向をそっと教える姿も見られ、そこに自然なコミュニケーションと学びの場が生まれていた。

― 親が真剣に取り組むことが、結果的に一番の抑止になる、ということでしょうか。

山田 私はそう思います。小さい頃に、お父さんやお母さんに言われたことは、大人になっても意外と覚えているものです。

政府の発表によれば、性被害の加害者の約8割は顔見知りだとされています。先生やコーチ、友達、親戚など、子どもの身近にいる人です。だからこそ、親が日々のなかで「何を」「どう伝えるのか」を考えることが大切だと思っています。

親御さんも忙しく、本当に大変だと思います。その上で、立ち止まって考えるきっかけになればと願っています。かるたは、その入り口です。単に制作したのではなく、親子の対話を生み出すコミュニケーションの装置として位置づけています。

― 親が子を守りたいという思いは、社会に対する最大のアピールにもなりますね。

山田 親が本気で考えている姿を見せることが、いちばん伝わると思っています。

「人ベース」で考える産学連携

― アイシンの鈴木研司さんは「鈴木こども博士」として講師役を担っています。

鈴木研司(アイシン シニア・エグゼクティブ・アドバイザー/立命館大学デザイン科学研究所 上席研究員) 昨年、こども博士のコスチュームでテビューしたところ、思いのほか盛り上がったので、それ以降もこのスタイルで続けています。

山田 鈴木さんがここまでやってくださるので、場の空気が一気に和みます。今年は鈴木さんから「アイシンにおもしろい若手がいるから」と紹介していただき、若手メンバーも参加しています。部署の枠を越えて関わる動きが、社内にも広がりつつあります。

鈴木さんは、新しいことを始めるとき、必ず「みんなで一緒にやりましょう」と声をかけてくださいます。上から語るのではなく、自ら同じ場に立つ。その姿勢があるだけで、人と人が自然につながっていきます。状況を見極めながら、挑戦できる機会をひらいていく。そういう関わり方をされる方です。

こうした経験を通して、私は産学官地域連携が動く鍵は「人」にあると実感しました。前編で触れた「人際」という考え方も、まさにそこから生まれています。

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設営を終えたばかりの運営チームも、楽しいイベントへの思いで自然と笑顔があふれている。「演者が楽しいと、受け手もきっと楽しい」という山田さんのメッセージを、メンバーは共有している。

山田 意思決定に関わる立場で、知識や経験を持つ人が加わると、学生の目は本当に変わります。その変化は、瞬く間に表情に現れます。

今回で言えば、鈴木さんが「やりたいことがあるなら、思いきって挑戦していい」と背中を押してくださったことが大きかった。グッドデザイン賞へのエントリーも、その一言があったからこそ踏み出せました。

さらに、私の指導教員である徳田教授が、学術的な立場から「これは研究として取り組む意義がある」と支えてくださったことで、実務と研究の両面から挑戦を後押ししてもらえました。

グッドデザイン賞に評価していただき、こうして「見つけてもらえた」ことも、関係者にとって大きな転機でした。このプロジェクトが形になったのは、挑戦の機会を開いてくれた人と、それを支えてくれた人の存在があってこそだと思っています。

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2024年度のグッドデザイン賞のテーマ「勇気と有機のあるデザイン」にも背中を押されたという。「日本社会も変わろうとしているのかもしれない。だったら、一歩踏み出した人を表彰しようとする視点に賭けてみよう。次はない、ぐらいの気持ちでした」(山田さん)。

― こうした「人を起点にした連携」は、地域や企業を巻き込む実践の場でも活かされているのですね。

山田 はい。何事も、できるかどうかは組む人次第です。特に、次世代モビリティ社会という切り口では、自動車販売店の参画が必須だと考えています。私は、自動車メーカーの枠を超えて、SNSなども使いながら、とにかく人材を探しました。新しくて面白いことに挑戦している人は誰かを見つけ、声をかける。そうやってスカウトしたのが、京都トヨタGRガレージ京都伏見のチームでした。

― 全く伝手のないところから、徹底的に人材を探していったのですね。

山田 そのくらいしないと、本気で一緒に取り組める人には、なかなか出会えません。「この人だ」と思ったら、自分で声をかけ、共感をベースにこの場に加わってもらっています。今回は特に「子どもを守りたい」という思いが、関係を支える軸になっています。

アイシンも、それまで国内の人文社会科学系アカデミアとはほとんど組んでいませんでした。技術系企業なので、理工系との産学連携が中心だったんです。今回、経営学と組んでいただいたことが、新しい挑戦だったと思っています。

鈴木 立命館大学と組むきっかけになったのは、スタンフォード大学の社会心理学者バイロン・リーブス先生の言葉でした。「技術を極めただけではだめだよ。人文系と組んだ方がいい。技術だけではイノベーションは起こらない」と。

日本では産学連携も、技術が一致すると一緒に組む、という形になりがちです。でも、それだけでは新しい発想は生まれにくい。やはり人を起点にしないと、本当の意味でのイノベーションにはならないと思っています。

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「僕たちは、デジタルに頼りすぎていると思います。かるたは“マインドモデル”的な存在ですよね。『かるた』と聞くだけで、どういうものかが自然と共有されている。日本には、そういう文化的な装置がたくさんあると思うんです」(鈴木さん)。

鈴木 本来、アカデミックな人たちがやっているのは、時代の先駆けです。社会の先を本気で考えています。だから簡単に結果がでるわけではありませんが、途中で反対されたらいったんスルーすればいいぐらいに捉えています。

山田 鈴木さんもその感覚ですよね。私自身、新規事業に長く携わってきましたが、新しいことが社会に受け入れられるまでには10年ほどかかると感じています。だから、やり始めたら10年続けるつもりで取り組みます。

このかるたの活動も、2026年度で4年目を迎えます。企画当初は私と鈴木さん、徳田先生の3人だけで、ネガティブな意見も少なくありませんでしたが、少しずつ共感が広がってきました。

楽しいから、人が集まる PTAが動かした「場」の力

― この取り組みが学校や地域へと広がっていった背景には、どんな出会いやきっかけがあったのでしょうか。

山田 2024年9月に、京都トヨタ GRガレージ京都伏見とのイベント(秋祭り)で、かるた大会を開きました。その参加者の中に、下鳥羽小学校のPTA会長の坂梨可愛子さんがいらっしゃったんです。名古屋市役所で子どもの貧困を担当されていた経験もあり、すごく共感してくださって、「ぜひ一緒にやりたい」と、PTAが主催するイベントに声をかけてくれました。そこから、新春のかるた大会につながっていきました。

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「大人だけでなく、子どもも一緒に手伝ってくれています。小学生でも、遊びたいけれど手伝いもしたい、と率先して動いてくれる。それを保護者が見て、さらに協力してくれる。いい循環があるので、継続しているのだと思います」(坂梨可愛子さん)。

― PTAの立場から見て、かるた大会はどう映っていましたか。

坂梨可愛子(下鳥羽小学校PTA会長) 主催する側が楽しくて、子どもが喜ぶイベントであることが大事です。楽しくないと、続かないと思っています。今は共働きの家庭も多くて、日常よりも、イベントに一緒に来るほうが親子で触れ合う時間になることも多いんですよね。

― 授業など、別の形も考えられたのでしょうか。

坂梨 子どもの性被害というテーマは、大人にとってもセンシティブで、保護者が子どもに伝えにくい言葉が多いと思います。でも、かるたを通すと、親しみやすい言葉で、大人も子どもも一緒に理解できる。それがすごくいいなと思いました。

授業だと、どうしても保護者には伝わりにくい。学校からも保護者に向けたプリントなどで伝えることはありますが、どうしても直接の言葉にはならないんですよね。その点、このかるたは、親も一緒に参加して、同じ場で、同じ言葉を聞ける。そこが全然ちがうな、と思いました。やっぱり、実際に聞く言葉にはリアリティがあります。

― 餅つきや車両展示、メタバース体験など、外部との連携も印象的でした。

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アイシンのDX戦略の一つであるメタバース技術を広く知ってもらうため、同社の若手社員も今回のイベントに参加した。ジャパンモビリティショーなどで披露される最新技術を、子どもが身近に体感できる機会となった。

坂梨 PTAや学校だけでは、こうしたイベントはできません。外の力を借りられるのは、本当にありがたいです。若い人が来てくれると、場も一気に元気になりますし、子どもが「行きたい」と言えば、大人も自然と一緒に動いてくれます。

― 実際の反応はいかがでしたか。

坂梨 「参加してよかった」という声は多かったですね。一度で覚えられなくても、まずは保護者が聞いて、家庭で話題にしてもらえたらいいなと思っています。産学連携は、本当に大きな力です。小学校やPTAだけでは、これだけの規模のイベントは実現できません。大学や企業、地域の方々の協力があって、初めて形になります。

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「生々しい表現はなく、子どもに寄り添った内容で、すごくいいかるただと思います。今回はSNS編ですが、もっと広がっていってほしい。犯罪はアップデートされていくものなので、これもまた更新されていったらうれしいですね」(坂梨さん)。

坂梨 今回は、中学生や高校生のボランティアの存在もとても大きかったです。卒業生の子たちが「何か手伝うことある?」と声をかけてくれて、準備や片付け、模擬店のサポートまで担ってくれました。最初は言われたことをやるだけだった子たちが、少し声をかけると、「見にくい」「やりにくい」と自分たちで考えて動き出す。その姿を見ると、地域の中で子どもが育っていく感覚があります。

大学や企業の方と関わる経験も、子どもたちにとっては大きな学びになります。大人もがんばっているけれど、子どもたちが一緒に動いてくれるから、地域は回っていく。そんな循環を、これからも続けていきたいですね。

地域をつなぐ京都トヨタGRガレージ京都伏見

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「イベント運営は、僕らの得意分野です。年間で50本くらいやっています。今回は司会や全体の進行を担当しました。僕自身がこの小学校の卒業生で、子どもも通っていたこともあり、親御さんと直接話せた。子どものためなら動いてもらえる。だから、PTAという窓口が一番しっくりきました」(宿女誠さん)。

― イベントのパートナーとして、京都トヨタGRガレージ京都伏見が関わっています。今回の下鳥羽小学校でも、かるた大会と並んで、車両展示や体験型の企画が行われていました。販売店でありながら、地域に開いたイベントを継続的に手がけている理由は、どこにあるのでしょうか。

宿女誠(京都トヨタ自動車株式会社 マーケティング企画課副部長) もともとうちは、周年イベントを含めて、地域向けのイベントを毎年やってきました。山田さんとの取り組みも、その延長線上にあります。最初は街歩きやマップづくりのイベントから始まり、そこにかるたが加わりました。今回で一緒にやるのは7回目で、小学校での実施は2回目です。場所は変わっても、チームはずっと同じですね。

― 「子どもの性被害低減への対策」というテーマは、販売店のイベントとしては少し意外にも感じられます。

宿女 確かに、実業に直結した社会課題ではないかもしれない。ただ、車業界全体で見ると、子どもとの接点が減っているという大きな課題があります。車を買ってもらう以前に、子どもたちが車に触れる機会そのものが減っている。整備士のなり手も激減していて、業界としてはかなり深刻です。

でも、子どもの性被害という問題が起きたら、「車が好き」とか言っている場合じゃなくなりますよね。子どもたちが安心して暮らせる環境があってこそ、地域も、企業も成り立つ。だからこれは、ぜひ一緒にやりたいと思いました。

手前で気づくための設計

― 重く受け止められがちなテーマですが、このかるたは楽しく遊べる印象があります。

宿女 このかるたがいいのは、「子どもの性被害そのもの」を直接伝えるのではなく、日常の中で手前に気づける内容になっている点だと思っています。「あやしいメッセージは無視する」とか、当たり前だけど大事なことを自然に覚えられる。実際、防犯意識が高まっている感覚はありますし、子どもの性被害に限らず、ほかの場面にも通じる内容だと思います。

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パレードなどに使われるクラウンのオープンカーやラリーカーを展示。子どもたちも実際に乗車し、大よろこびだった。

― 交通安全の標語のように、なんとなく覚えていて、行動につながる、ということですね。

宿女 何回も一緒にイベントができているのは、この組み合わせが合っているから。座組みがおかしかったら、たぶん一回で終わっていたと思います。続いているのは、それぞれの得意なことが噛み合って、ニーズとも合っているからじゃないでしょうか。

なにより、自分がやるならどうするか、子どもが来るなら何がいいかを、自分ごととして考えられているのが大きい。PTAの方は、皆さん子どもを持つ親で、この子のことを一番真剣に考えている人たちです。人を集める力もあります。PTA会長や役員の方が間に入って、「一緒に来よう」「友だちも誘ってみよう」と具体的な声かけができる。そこが、いちばん自然に人が動くところだと感じています。

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交通安全やドライブ情報を発信しているモビリティのジャーナリスト・ユニット“OKISHU”(吉田由美さん、まるも亜希子さん)も参加した。「交通事故は家から出て30分以内に一番多く発生しています。また、先進国の中で日本は歩行者の事故が最も多い。そうした事実を子どもに伝えつつ、実はお父さんお母さんに知ってもらいたいのです」と語る。

大学には「研究」を支える専門職がいる —研究部という、もう一つの担い手

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立命館大学研究部OICリサーチオフィスの岡本慎也課長(左)と課長補佐の古瀬充奈さん。アイシンとの産学連携について、「広く社会に貢献することは大学の使命ですが、アイシンさんとはその思いは重なっています。人文社会科学系で企業とタッグを組み、予算や規模がここまで大きい例は少ないと思います」と語る。

― 立命館大学のOICリサーチオフィスは、どのような役割を担っている組織なのでしょうか。

岡本慎也(立命館大学研究部OICリサーチオフィス 課長) 研究部の下に、各キャンパスごとにリサーチオフィスがあり、私たちは大阪いばらきキャンパスを担当しています。研究者の支援が主な業務で、研究費や施設の調整、企業との連携の窓口など、かなり幅広い仕事をしています。

今回の取り組みでは、2023年からアイシンさんとの連携にあたり、山田さんを中心に、大学と企業の間に入って調整を行ってきました。イベントで配る参加賞の発注や、登壇者への謝礼、冊子の制作など、いわゆる裏方の仕事です。研究そのものというより、「場を成立させる」役割ですね。

― 人文社会科学系の研究としては、かなり珍しい規模では?

岡本 山田さんの指導教員である徳田教授は、以前から企業と連携した研究会を行っていました。アイシンの鈴木さんとタッグを組み、山田さんの研究テーマが加わり、「いばらきキャンパスでやろう」と、動きが一気に加速していきました。

人文社会科学系の産学連携で、これだけの期間と規模で、しかも製造業のメーカーと組む例は多くありません。通常は一年単位で、関わる研究者も数人程度です。

このプロジェクトは2026年度で4年目を迎え、かるたの取り組みにとどまらず、同じ枠組みの中で複数の研究や実践が進んでいます。関係者だけでも数十人、イベントを含めるとさらに広がっています。分野も経営学だけでなく、食マネジメント学部など、さまざまな教員が関わっています。

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カルタ大会には子どもたちだけでなく、親子や大人だけのチームも参加した。どの世代も、気づけば札を集めることに夢中になっていた。

研究が「体験」として伝わる

― 産学連携の成果としてのグッドデザイン賞への応募も、大学としては異例だったのでは。

岡本 はい。産学連携の共同研究の成果をグッドデザイン賞に出す、という前例はほとんどありませんでした。どうやって出すのか、どこに相談すればいいのか、そこからのスタートです。学内調整や広報部門、アイシンさん側との連携など、かなり手探りでしたが、「取り組みそのものがグッドデザインだよね」という共通認識はありました。

古瀬充奈(立命館大学研究部OICリサーチオフィス 課長補佐) 研究というと、どうしても難しく感じられがちですが、この取り組みは、イベントという形でとても分かりやすく伝わる。親子で体験できる場になっているのが大きいと思います。

― 成果がすぐに見えにくい研究でも、評価されうると。

古瀬 はい。目の前の成果というより、長い時間をかけて考え方や行動が変わっていく。そのプロセス自体が評価されたのだと思います。

岡本 正直なところ、研究部としても当初は「こんな関わり方でいいのかな」と手探りでした。でも、この3年間の取り組みを通じて、研究のアプローチにはさまざまな形があるのだと実感しています。研究そのものは研究者が進めますが、その挑戦を支える関わり方もまた、私たちの役割の一つだと感じています。

人が核になる かるた起点のオープン・イノベーション・エコシステム

- ここまで見てくると、「かるた」は目的というより、起点のようにも感じます。この取り組みを、あらためてどう捉えていますか。

山田 かるたは、答えではありません。入口です。「SNSをきっかけとした子どもの性被害にどう向き合うか」という問いに、単一の正解はありません。でも、考え始める人を増やすことはできる。そのためのきっかけとして、かるたがあります。

― この取り組みの核心はどこにあるのでしょうか。

山田 核心は「人」だと思っています。企業、大学、PTA、地域と立場は違っても、「子どもを守りたい」という一点は共通していました。その共通の思いがあるからこそ、自然と役割が生まれ、それぞれが得意なことを持ち寄る関係ができたのだと思います。

誰かが犠牲になるのではなく、意思ある人が場に入り、関係がつながり、また次の人が加わる。だからこそ、この取り組みは一過性で終わらず、続いているのだと思います。

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― 最後に、この取り組みを通して伝えたいことは。

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8回目を迎えた今回のイベントでも、さまざまな領域のプロフェッショナルたちが結集し、本気で臨んでいた。「きれいごとだけでは続けられないし、大きなグランドデザインがなければ人の共感は得られません。その難しさは感じています。でも、みんなが『ただ楽しい』と感じながら関わってくれている。それが続いている理由だと思います。演者が心から楽しいと思えないものは、受け手には届きませんから」(山田さん)。

山田 社会課題は、「誰かが解決してくれるもの」ではありません。でも、「一人で抱え込むもの」でもない。声を出して、場をつくって、人とつながれば、動かせることはある。かるたは、そのための小さなきっかけです。

でも、その小さな一歩が、親子の会話を生み、地域を動かし、企業や大学のあり方まで問い直すところまで来た。それが、このプロジェクトで起きていることだと思っています。

― ありがとうございました。立場も役割も異なる人たちが、それぞれに「未来を少しでも良くしたい」という思いを持ち、自分にできることを持ち寄り、さらに次の人へと手渡そうとしている。そのきっかけとして機能していたのが、この「かるた」でした。人と人のあいだをつなぎ、行動を生み出していくその姿に、心を励まされる取材となりました。


かるた、産学連携共同研究、産学連携PBL  性被害やっつけたるわファミかるた SNS編

(株)アイシン/立命館大学

「性被害やっつけたるわファミかるた」は、見て見ぬふりや形式的な啓発にとどまらず、「子どもの性被害低減への対策」という極めてデリケートな社会課題に真正面から向き合ったデザインである。産学官地域が有機的に連携し、子どもと大人が同じ場で学び、考え、自ら備えることを可能にする「かるた」という形式は、理解の深度と継続性を両立させた点で高く評価された。特に、Z世代の学生と企業、研究者を結びつけた実践的な共創プロセスは、共同研究に終わらない社会実装のモデルを提示している。シリアスなテーマを深刻にしすぎず、遊びと学びを通じて人口に膾炙させていく覚悟と設計力が、本受賞の核心である。


受賞詳細
2024年度グッドデザイン賞 https://www.g-mark.org/gallery/winners/22399

プロデューサー
アイシン 取締役 鈴木研司+立命館大学デザイン科学研究所・経営学部 教授 徳田昭雄

ディレクター
立命館大学大学院 経営学研究科 徳田昭雄研究室 博士後期課程 D2山田貴子 +(株)アイシン CSS管理部 椎窓利博

デザイナー
立命館大学大学院 経営学研究科 山田貴子/立命館大学 経営学部 第13期徳田ゼミ アイシン班(木谷響、田中萌々香、佐藤聖良、日髙咲、林晃平)+(株)アイシン 知的財産部 後藤健次/広報部 服部節子

 
この記事は株式会社アイシン、立命館大学とGood Design Journalの企画広告です。


石黒知子

エディター、ライター

『AXIS』編集部を経て、フリーランスとして活動。デザイン、生活文化を中心に執筆、編集、企画を行う。主な書籍編集にLIXIL BOOKLETシリーズ(LIXIL出版)、雑誌編集に『おいしさの科学』(NTS出版)などがある。


成合明子

ライター

会社員、工芸ギャラリースタッフなどを経た後、ライターとして活動。雑誌、単行本等でライティング、編集に携わる。


川村恵理

写真家

美術系専門学校を卒業後、スタジオ勤務や写真家助手を経て2017年に写真家として独立。以後、コミッションワークを主軸としつつ、作品制作にも重きを置いた活動を展開している。

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