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「よいデザイン」がつくられた 現場へ

よいデザイン、優れたデザイン、 未来を拓くデザイン 人々のこころを動かしたアイデアも、 社会を導いたアクションも、 その始まりはいつも小さい

よいデザインが生まれた現場から、 次のデザインへのヒントを探るインタビュー

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今回のお訪ね先

株式会社アイシン/立命館大学

産学連携で「タブー、やっつけたるわ」

2026.03.13 【PR】

子どもの性被害低減への対策は、深刻な社会課題でありながら、長年タブー視されてきた領域です。企業が正面から向き合うにはレピュテーションリスクが高く、結果として対策は限定的な広がりにとどまってきました。 この課題に、産学連携というかたちで向き合ったのが、アイシンと立命館大学による共同研究プロジェクトです。この取り組みから「性被害やっつけたるわファミかるた SNS編」が生まれ、2024年度グッドデザイン賞を受賞しています。 一度聞いたら忘れられないこの名前には、本プロジェクトの出発点となる切実な問題意識と、行動への意思が込められています。なぜ、この名前を選んだのか。なぜ、このテーマに産学連携というかたちで向き合うことができたのか。プロジェクトを支えた株式会社アイシン シニア・エグゼクティブ・アドバイザーで、立命館大学デザイン科学研究所 上席研究員の鈴木研司さんと、発案者である立命館大学の山田貴子さんに伺いました。


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2024年度のグッドデザイン賞を受賞した「性被害やっつけたるわファミかるた SNS編」。子どもの性被害低減への対策というタブー視されがちな社会課題に、産学連携で向き合ったプロジェクト。

なぜ「産学連携」でなければならなかったのか

― 子どもの性被害というテーマに、山田さんが強い問題意識を持つようになった原点は、どこにあったのでしょうか。

山田貴子(立命館大学大学院 経営学研究科) 短大を卒業して会社に入ってから、社会保障制度や福祉を含む社会の仕組みについて体系的に学びたいと思うようになりました。その切り口として子どもを起点に学ぶのが適切だと考え、保育士国家試験の市販の教科書を使って勉強を始めました。

保育の世界では、社会保障だけでなく、心理学や栄養、保健など、子どもを取り巻くことを幅広く学ばなければならない。そうした分野を横断的に学べるのが、保育士の勉強でした。それで、28歳の頃に保育士の国家資格も取得しました。

その学びの中で、ずっと引っかかっていたのが、子どもの性被害の問題でした。深刻な社会問題でありながら、タブー視され、20年以上、ほとんど状況が変わっていない。警察の統計に表れる件数は限られていますが、実際には、被害に遭っている子どもは確実に増えている。その現実に、強い違和感を覚えてきました。

― 近年、社会問題化し、制度面での整備も少しずつ進んでいますが、それだけでは解決しない難しさも感じられていたのではないですか?

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立命館大学大学院 経営学研究科の山田貴子さん。企業での実務経験を通して、次世代のモビリティ社会の実現に向けた社会構想から社会課題の解決が抜け落ちていると気づき、自ら取り組もうと一歩を踏み出した。

山田 制度が整い始めていること自体は、前進だと思っています。ただ、それだけで子どもの性被害が減るのかというと、正直、疑問もあります。被害が起きてからどう対応するかではなく、そもそも起きない社会をどうつくるか。そこに目を向けなければ、本質的な解決にはならないと感じていました。

だからこそ、行政や制度だけに委ねるのではなく、民間や教育の立場からも、この問題に向き合う必要があると考えるようになりました。この問題に産学連携というかたちで取り組む意味も、そこにあると考えました。その結果として、この「かるた」が生まれたのです。

研究と実務のあいだで考えてきたこと

― 山田さんご自身は、もともと企業で新規事業に携わってこられました。研究者として、また実務の経験者として、どのような立場でこのプロジェクトに関わっているのでしょうか。

山田 このプロジェクトでは、企業の実務と大学での研究、その「あいだ」に立つ立場で関わっています。私は現在、トヨタ自動車に勤務しながら、リカレント教育の形で、立命館大学の経営学の博士後期課程で学んでいます。トヨタ自動車には26年間勤務し、国内営業を経て、ここ15年間は、安心安全な次世代モビリティ社会の実現に向け、クルマ・人・社会をITでつなぐコネクティッドサービスを中心とした新規事業の企画・開発を担当してきました。

技術やサービスをどう社会に実装するか、そのプロセスを考える仕事に従事しつつ、次第に、「新しい技術や仕組みが、本当に困っている人たちに届いているのか」という問いを持つようになりました。モビリティ社会というと「移動」が注目されがちですが、人の心が動くこと、安心や信頼が生まれることも、広い意味では「ムーブ」だと思ったからです。

そうした問題意識を持つ中で、2018年からトヨタの人間として、立命館大学デザイン科学研究センターに立ち上げられた「Future Mobility研究会」に参加したことで、経営学の師となる徳田昭雄先生と出会ったのです。ここでなら、社会課題を正面から議論できるかもしれない、と感じたのです。

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完成した「かるた」を前に、言葉や構成について語る山田さん。プロダクトとして社会に出すことを前提に、細部まで検討が重ねられた。

山田 その後、アイシンとの産学連携※1を背景に、2023年度のPBL(課題解決型学習)の授業を担当することになり、その枠組みを活かして、学生たちと一緒に社会課題を起点にプロダクトを考える取り組みを提案しました。企業で実践してきた新規事業の進め方──現状を調べ、課題を整理し、プロトタイプをつくり、検証しながら磨き上げていく──そのプロセスをフレーム化して、教育の現場に持ち込んだ形です。

※1アイシンと立命館大学デザイン科学研究所の産学連携共同研究および立命館大学の経営学部の徳田・岡部ゼミの3回生に向けた産学連携PBLのプロジェクト

本気で産学連携をやるなら、誰と組むか

― その研究を、実際の社会実装につなげる相手として、アイシンを選ばれた理由は何だったのでしょうか。

山田 そもそも最初のきっかけは、株式会社アイシンの副社長を務められてきた鈴木研司さんという経営者の存在でした。以前よりトヨタの仕事でお付き合いがあり、企業が社会課題にどう向き合うかという点で強い問題意識を共有していました。その鈴木さんが長年経営の中枢を担ってきたのがアイシンでした。アイシンは、社会課題の解決を経営理念の中に明確に位置づけてきた企業です。その姿勢こそが、私の研究テーマである「オープン・イノベーション2.0」※2を考える出発点にもなりました。鈴木さんの意思決定や考え方は、私自身の研究において重要な示唆を与えてきたものであり、その実践が積み重ねられてきた場が、アイシンだったと感じています。

※2欧州委員会が2013年に提示した概念で、社会課題の解決と経済的利益の創出を両立する産学官市民連携のオープン・イノベーション・エコシステムを意味する。

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株式会社アイシン シニア・エグゼクティブ・アドバイザーの鈴木研司さん。アイシンは、オートマチックトランスミッション(AT)やカーナビゲーションシステムなど、自動車の基幹技術を担ってきた企業である。

山田 鈴木さんは現在、アイシンのシニア・エグゼクティブ・アドバイザーという立場ですが、2021年のアイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュ(AW)の統合後も副社長を務めてこられました。いわば、長年にわたって企業経営の中枢を担ってきた経営者です。

― そもそも、この産学連携はどのようなきっかけで始まったのでしょうか。

山田 私から鈴木さんに電話をしたのがきっかけです。MBAを取得し、立命館大学の博士後期課程に進むことを考える中で、関西の企業か、トヨタグループのどこかと産学連携を組みたいと思っていました。

これまで新規事業に長く携わり、多くの企業経営者と仕事をしてきましたが、産学連携の相手として真っ先に思い浮かんだのが、アイシンの鈴木さんでした。思いついた勢いで電話をかけたのが、2022年7月です。

今回の研究は「かるた」を軸に、産学官地域連携によるオープンイノベーションがどのように駆動するのかを探ったものです。その成果として、研究にとどまらず、かるたという具体的なプロダクトを制作しました。研究の成果を社会に開き、日常の中で実際に使われるかたちへと落とし込んだ点も、今回の取り組みの特徴です。

産学連携の取り組みの中でも、大手企業がここまで踏み込むケースは決して多くありません。トヨタグループの中でも、社会課題の解決を新規事業として実践している例は、まだ限られていると言えるでしょう。

― アイシンじゃなければ、成り立たなかったということですね?

山田 そうですね。現実的には難しかったと思います。それ以前、アイシンは国内の人文社会科学系のアカデミアとはほとんど組んでいませんでした。技術系企業なので理工系との連携が中心でしたが、経営学と組んだ点も、今回のおもしろさだと思います。

― 鈴木さんが、産学連携の取り組みに関わるようになった経緯を教えてください。

山田 最初のきっかけは、徳田先生の存在でした。徳田先生はとてもおもしろい研究者で、ある日ふと、「徳田先生と鈴木研司さんを掛け合わせたら、きっとおもしろいことが起きるんじゃないか」と直感したんです。おもしろい人同士が出会うと、すぐに形にならなくても、いずれ具体的なアクションが生まれる。そんな感覚が、私の中にはありました。

その後、私の徳田研究室への入学が決まったタイミングで、「じゃあ、産学連携を一緒にやろうか」とアイシンから声をかけていただき、資金面も含めて支援を受けることになりました。そこから、プロジェクトとして本格的に動き始めました。

― それにしても、同じトヨタグループとはいえ、鈴木さんのような立場の方と、どうやって関係を築いていったのか。気になるところです。

山田 そうですね。そもそも鈴木さんとの出会い自体は、私が社内で立ち上げたばかりの新規事業で、新製品の売り先を探していた頃にさかのぼります。なかなかうまくいかず、社内外の経営層に、何度も足を運んでいました。

そのとき、当時お付き合いのあった経営層の皆さんが口をそろえて言ったんです。「山田のことをわかってくれる人が、一人いるかもしれない」って。しかも、全員が「アイシンの」と前置きするんです。「アイシンAWに、鈴木研司という専務の方がいる」と。正直、何のキャンペーンだろう?と思ったくらいです(笑)。それが2018年頃でした。

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鈴木さんは、トランスミッション事業を皮切りに、制御ソフトウェア開発、IT部門、ナビゲーション事業までを横断して担い、長年アイシンの経営中枢を支えてきた。その複層的な視座は、本プロジェクトの基盤となっている。

鈴木研司(アイシンシニア・エグゼクティブ・アドバイザー/立命館大学デザイン科学研究所 上席研究員) そうだったの、知らんかった(笑)。

山田 だから、誰に紹介されたのかは正直わからないんですが、さまざまな領域の経営層の皆さんが薦めてくる人だったんです。そこから、製品の販売などの仕事を通して、関係が続いていきました。

アイシンは、ATをはじめとする駆動系や制御技術を中核に、膨大な特許を持ち、長年、自動車産業の基盤を支えてきました。たとえば1992年に世界で初めて開発された音声案内機能付きカーナビゲーションシステムもそうです。当時は「運転中に画面を見るのは危険だ」「そんなものは必要ない」と言われていました。でも結果として、その技術はいまでは当たり前になり、多くの人の移動体験を支えています。

それでもアイシンは、車の未来を見据えて開発を進め、結果として「今の当たり前」をつくってきました。今、私たちが何気なく使っている自動車関連の技術の多くは、アイシンが起点になっています。

鈴木さんは、そうした企業でIT部門のトップとして、新規事業やDXを一貫して率いてこられた経営者です。私自身、トヨタで「CASE」と呼ばれる領域、特に、車・人・社会をITでつなぐコネクティッドサービスを中心とした新規事業に携わってきましたが、その点でも鈴木さんとは問題意識が近かった。

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紆余曲折はあった。パートナー企業のアイシンに対し、確実に成果が見込める企画を提案したところ、「もっと意義があることにお金を使いたい。社会課題解決のために、経営学と“世界初”を実現してきた会社が組むのなら、世の中を動かすことを目指したい」と鈴木さんから初めて怒られたのだと、山田さんは語る。

山田 アイシンは、何のための新規事業なのか、その戦略の立て方がおもしろいんです。

鈴木 必ず自分たちのコアとなる技術や資産を起点に考えます。トランスミッションを担当してきた人は、その延長線上で新規事業を構想する。全く新しいことにいきなり取り組むのではありません。

イノベーションは、全く新しいものではない。木の根が同じ水を吸って広がっていくようなものです。そうやって、実現可能性を確かめながら進めていく。いわゆるPoC(概念実証)を重ねるやり方ですね。

山田 だから産学連携が効いたのだと思います。もう一つ重要なのは、アイシンの経営理念です。アイシンでは「目的」ではなく「使命」という言葉を使ってきました。ATの開発も、儲けるためではなく「誰もが運転できる社会をつくる」という使命から始まっています。社会課題という言葉が一般化する以前から、社会に何をもたらす技術なのかを問い続けてきた企業です。

鈴木 プロジェクトを始めると、「目的」を書きますよね。でも「目的」にしてしまうと、小さな利益や小さな概念に収まってしまう。だから当時のアイシンAW社長、諸戸脩三は「目的と書くのはやめて、『使命』と書こう」と話していました。

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アイシングループが掲げる経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)。社会課題という言葉が一般化する以前から、「移動」を通じて社会に何をもたらすかを問い続けてきた。

山田 本気で社会実装を目指す産学連携であれば、相手企業が経営戦略として「何を大切にして意思決定してきたか」まで含めて共有できなければ、成立しないと考えていました。その条件を満たす相手が、当時の私にとってはアイシンだったのです。

30秒の決断が、プロジェクトを動かした

― 電話の段階では、まだ具体的なテーマまでは決まっていなかったのですよね。そこから、どのようにしてプロジェクトの中身が立ち上がっていったのでしょうか。

山田 そうですね。その時点では、「産学連携で何か新しいことをやりたい」という大枠の話でした。ただ、私の中では、ずっと引っかかっていたテーマがありました。それが、子どもの性被害です。

2023年の初めに、鈴木さんと出張でご一緒する機会があって、品川駅で別れる直前、ほんの30秒くらいのタイミングがあったんです。そのときに、「私、子どもの性被害についてやりたいです」とお伝えしました。

本当にそれだけです。用意したのはたったA4一枚の企画書だけでした。詳しい説明もできなかったし、正直、反発されるかもしれないと思っていました。

― かなり踏み込んだテーマですよね。

山田 鈴木さんは、そのとき「わかった。また詳しく教えて」と言ってくださいました。その一言で、「これは実現できるかもしれない」と感じたのを覚えています。

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鈴木さんは、2021年の経営統合後、アイシンのCSSカンパニー(Connected & Sharing Solutions Company)を率い、カーナビなどで培った自社技術を活用し、社会課題解決と事業を結びつける新規事業とDXを推進してきた。

― 企業がこのテーマに向き合おうとするとき、特に単独ではどんな難しさがあるのでしょうか。

鈴木 正直に言うと、その場で細かい中身まで理解できたわけではありません。時間も本当に短かったですしね。ただ、「これは簡単なテーマじゃないな」ということだけは、すぐにわかりました。

企業単独でやろうとすると、どうしてもレピュテーションの問題が先に立ちます。一方で、社会課題として見れば、「おかしい」「ありえない」と感じている人は、もう世の中にたくさんいる。にもかかわらず、誰も手を出せていない。

だったら、アカデミアと一緒にやることで、正当な理由を持って踏み込めるんじゃないか、と思ったんです。今、ありえないと思うことが、世の中にはたくさんありますよね。そういうことを解決しようとしたら、やっぱり、ありえないことをやらないと解決しない。

「リディキュラス」な組み合わせから、イノベーションは生まれる

― 産学連携であれば、という判断だった。

鈴木 産学連携に多い例で言うと、「もっと強い磁石のモーターがほしい」となったら、磁石を研究している教授とモーターをつくっている会社が組むでしょう。それ自体はとても合理的で、当たり前の組み合わせです。

でも、イノベーションの原点は、そこだけじゃないと思っています。スタンフォード大学の社会心理学者、バイロン・リーブス先生から、こんなことを教わりました。「リディキュラス、つまり、ちょっと奇異に見えるものと、本質的にやるべきことの間に接点が生まれたとき、新しいものは生まれる」と。

今回のテーマは、まさにそうでした。子どもの性被害という、企業が扱うには難しいテーマ。それを、経営学や教育、学生の感覚と掛け合わせてプロダクトにする。一見すると、少し変わった組み合わせに見えるかもしれませんが、だからこそ、やる意味があると思ったんです。

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「ファミかるた」には、「むししよう しらないひとの メッセージ」など、日常の行動につながる言葉が書かれている。重いテーマを生々しく伝えるのではなく、遊びの中で自然に共有されるよう設計されている。

― 合理性だけでは測れない価値がある、ということですね。

鈴木 合理性だけで測ろうとすると、最初から選択肢に入らないテーマはたくさんあります。でも、社会課題の多くは、まさにそこにある。「おかしい」「このままでいいはずがない」と多くの人が感じているのに、合理性や前例を理由に、誰も踏み出せていない。

だからこそ、少し遠回りに見えても、異なる分野や立場の人たちと組む意味があると思っています。今回の産学連携は、そのことを改めて確認する機会でもありました。

― このプロジェクトでは、学生が参加するPBL(課題解決型学習)という形が取られています。なぜ、学生と一緒に取り組む必要があったのでしょうか。

山田 一番大きな理由は、子どもにどう伝えるかを、本気で考える必要があったからです。子どもの性被害というテーマは、専門家や大人が正論を語るだけでは、なかなか届きません。ましてや、親にとっても向き合うのが難しいテーマです。深刻になりすぎず、真剣に取り組んでもらうにはどうすればいいのか。

そのときに重要になるのが、子どもに一番近い感覚を持つ世代だと思いました。それが、大学生です。学生は、子どもでもなく、大人でもある。その中間の立場だからこそ、子どもの目線と、大人の論理の両方を理解できる。その感覚を、プロダクトに反映させたかったんです。加えて今回は、近年、被害が起きるきっかけとして特に身近になっている、「SNSに起因する子どもの性被害」にテーマを絞りました。

このプロジェクトに参加したことで、学生たちは本当に変わりました。最初はどこか距離を置いているように見えた学生たちが、途中から「自分たちが本気でやってきたことを、私はここまでやりました」と言えるようになった。それが自信につながり、実際に就職が決まった学生もいます。少し誇らしいですね。

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「学生が、大人に頼るということを覚えたのが、とても印象的でした。警察や企業、専門家に自分から相談し、話を聞き、助けを求める。それは社会に出てから、とても大事な力です。そして、プロダクトが完成し、実際にかるた大会などで使われるようになると、『自分たちのやったことが、誰かの役に立っている』と実感できた。それは、教室の中だけでは得られない経験だったと思います」。

小さなプロダクトに託した、連鎖への期待

― 子どもの性被害低減への対策という、あまりにも大きく重い社会課題に対して、かるたという小さなプロダクトで挑む。その発想の根底には、どのような考えがあるのでしょうか。

山田 正直に言えば、この社会課題を一気に解決できるとは思っていません。制度を変えるにも、社会の意識を変えるにも、時間がかかります。ただ、だからといって、何もしない理由にはならない。私は、バタフライエフェクトのような変化を信じています。小さな取り組みでも、共感をベースに、誰かの意識が少し変わり、その連鎖が生まれていく。そのために大切なのは、人の力をどうつなぐか。

私は、経営戦略としてのオープン・イノベーション2.0や、社会的価値と経済的価値の両立に関する知見を基盤に、産学官地域連携を有機的につなぎ、イノベーション・エコシステムを駆動させ、成果を創出する主体としての「企業内の個」に着目してきました。こうした人材を、私は「人際(じんざい)」という独自の概念として位置付け、経営学の立場から研究しています。

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学生一人につき10句をオリジナルで考案。内容の重複を避けるため、何度も議論と取捨選択を重ねた。絵札は学生が手描きで制作し、アイシンの広報部などの協力を得てプロダクト化。商標登録も行われている。グッドデザイン賞の受賞をきっかけに認知が拡大した。プロジェクト創設3年間で、小学校・大学・自動車販売店での産学官地域連携のイベントとしての「かるた大会」を8回実施している。

― その中で、「親に伝える」という視点を、とても重視されていますね。

山田 はい。子どもにだけ教えればいい問題ではないと思っています。子どもを守るのは、基本的には家庭であり、親です。だからこそ、説教や啓発ではなく、親子で一緒に体験できる形を選びました。

かるたは、日本人にとってなじみがあり、世代を超えて楽しめる。楽しみながら、自然と話題にできることが、このテーマには必要だと感じました。

― 今回の取り組みは、2024年度のグッドデザイン賞も受賞しています。

山田 受賞は、ゴールというよりも、一つの通過点だと思っています。このプロジェクトは、かるたをつくって終わりではありません。

「世の中を、産学官地域連携で少しでも良くしたい」その思いに共感する人たちと、どうやってつながり、広げていくのか。私はそれを、「産学官地域連携の社会課題解決デザイン」として位置付け、これからも学術理論と実践を往還しながら継続していきたいと考えています。

つくって終わらせないためのデザイン

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「企業が社会課題の解決に取り組まないのは、儲からないこと以上に、評価尺度がはっきりしない点にあると思います」(鈴木さん)。

― 実際に関わってみて、どんな感触がありましたか。

鈴木 立場も専門も違う人たちが、同じ場で本気でやっている。その様子を見て、「これは続けたほうがいいな」と思いました。それだけです。

― 今後については、どのように見ていらっしゃいますか。

鈴木 この取り組みは、ここで終わるものではありません。むしろ、これからどう広がっていくかが重要です。一つひとつは小さな活動かもしれませんが、人と人がつながり、共感が連鎖していけば、社会は少しずつ変わっていく。その可能性を、産学官地域連携という形で示せたこと自体が、今回のプロジェクトの大きな成果だと思っています。

山田 鈴木さんはよく、「儲かることは後でいい。ちゃんとやっていれば、結果はついてくるから」とおっしゃいます。産学連携は、短期的な成果が見えにくい取り組みです。でも、だからこそ、結果が出るまで粘り強く続けていく。その姿勢そのものが、このプロジェクトの背骨になっています。

― このかるたは、プロダクトであると同時に、人と人をつなぐ起点でもあることがよくわかりました。その先で、どのような連携が生まれ、どんな場が立ち上がっていくのか。次回は、かるたを起点に広がり始めた「オープン・イノベーション・エコシステム」の実践を紹介します。


かるた、産学連携共同研究、産学連携PBL  性被害やっつけたるわファミかるた SNS編

(株)アイシン/立命館大学

「性被害やっつけたるわファミかるた」は、見て見ぬふりや形式的な啓発にとどまらず、「子どもの性被害低減への対策」という極めてデリケートな社会課題に真正面から向き合ったデザインである。産学官地域が有機的に連携し、子どもと大人が同じ場で学び、考え、自ら備えることを可能にする「かるた」という形式は、理解の深度と継続性を両立させた点で高く評価された。特に、Z世代の学生と企業、研究者を結びつけた実践的な共創プロセスは、共同研究に終わらない社会実装のモデルを提示している。シリアスなテーマを深刻にしすぎず、遊びと学びを通じて人口に膾炙させていく覚悟と設計力が、本受賞の核心である。


受賞詳細
2024年度グッドデザイン賞 https://www.g-mark.org/gallery/winners/22399

プロデューサー
アイシン 取締役 鈴木研司+立命館大学デザイン科学研究所・経営学部 教授 徳田昭雄

ディレクター
立命館大学大学院 経営学研究科 徳田昭雄研究室 博士後期課程 D2山田貴子 +(株)アイシン CSS管理部 椎窓利博

デザイナー
立命館大学大学院 経営学研究科 山田貴子/立命館大学 経営学部 第13期徳田ゼミ アイシン班(木谷響、田中萌々香、佐藤聖良、日髙咲、林晃平)+(株)アイシン 知的財産部 後藤健次/広報部 服部節子

 
この記事は株式会社アイシン、立命館大学とGood Design Journalの企画広告です。


石黒知子

エディター、ライター

『AXIS』編集部を経て、フリーランスとして活動。デザイン、生活文化を中心に執筆、編集、企画を行う。主な書籍編集にLIXIL BOOKLETシリーズ(LIXIL出版)、雑誌編集に『おいしさの科学』(NTS出版)などがある。


吉本標実

ライター

日本とドイツのパン業界を経験後、食品専門紙の編集部を経て独立。地域振興を図るNPOでの実務経験も生かし、地域・食文化・食品産業を中心に取材・執筆している。


川村恵理

写真家

美術系専門学校を卒業後、スタジオ勤務や写真家助手を経て2017年に写真家として独立。以後、コミッションワークを主軸としつつ、作品制作にも重きを置いた活動を展開している。

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