2025年度フォーカス・イシュー
デザインの自由と解放
“都心の公園”から広がる、「社会のOSを書き換える」デザイン──山田裕貴 × 太田直樹
2026.04.22
フォーカス・イシュー・リサーチャーの太田直樹は2025年度の提言のなかで、「社会のOSを書き換える」をキーワードにあげている。その言葉を体現する事例として着目したのが、千代田区内58の公園を“全体”として構想し直した「千代田区公園基本方針2025+公園リニューアル」だ。 千代田区は2025年、区内58すべての公園を対象とした『公園基本方針2025』を策定し、それに基づく個別のリニューアルを同時並行で進めた。カフェなどの収益施設で集客するPark-PFI型ではなく、公園そのものの質を高めて何十年、何百年と先まで残る公共空間をつくるという方針のもと推進されたプロジェクトである。 その全体設計を担ったのが、景観・土木デザイナーの山田裕貴(株式会社Tetor 代表取締役)だ。都心の公園から生まれる小さな変化は、社会の仕組みそのものを変えうるのか。100年先を見据えた公園づくりの思想とその手法が全国に“広がる”可能性を探るべく、リニューアルを終えたばかりの千代田区立錦華公園を歩きながら、太田が山田に話を訊いた。
“新しい”と“変わらない”を見つける
太田 千代田区が策定した『公園基本方針2025』と、それに基づいてリニューアルされた公園を見せていただきました。印象的だったのは、ハードの整備とソフトの運用を並行して進めている柔軟さです。58の公園すべてを対象にした全体方針を1年がかりの調査で策定しながら、翌年には分析と同時に個別の公園の設計も進めていく。計画と実践が切り離されていないところに、このプロジェクトの強さがあると感じました。
山田 計画と実践を分けずに進められたのは、いくつかの条件が揃ったからだと思います。区長がこの方向性を打ち出してくれたこともありましたし、行政側にキーパーソンがいたことも大きかった。区の担当者である渡辺さんという方が本計画を担当されていて、この方が私のキャリア初期に携わった公園の、当時の設計担当の方でした。設計の現場もわかるし、行政の計画立案もできる方で、他にご一緒した担当職員の方の体制もとても手厚く組んでくださいました。
太田 検討委員会も設けられたと聞きました。
山田 はい。専門の先生方にも入っていただきました。東京大学の中井先生やグッドデザイン賞の審査委員で都市研究者の伊藤香織さん、色彩の専門家や公園で実際に子どもの遊び場事業に取り組んでいただいている方、千代田区の環境まちづくり部長にも参加いただいて多角的な視点から助言いただきました。 面白かったのは、スケートボードのような新しいアクティビティを受け入れる一方で、「『人と人が出会う場』という公園の原点も見失わないように」と指摘をいただいたことです。新しい使い方と、昔から変わらない公園の価値。その両輪で、今回の方針を組み立てていきました。

太田 ここ数年、公園の利活用と言えばPark-PFIが話題になることが多いですが、今回のプロジェクトでは検討されましたか?
山田 ほとんど話題にはなりませんでした。Park-PFIは基本的に、民間事業者がカフェなどの収益施設を公園内に設置し、その収益の一部を公園の整備に還元する仕組みです。設置管理の許可期間は最長20年。施設の集客力で公園の魅力を高めようという発想ですが、千代田区が目指したのは、収益施設に頼らず、公園そのものの質を上げて長く残るものをつくるアプローチでした。
もちろん、Park-PFI自体は素晴らしい仕組みですし否定するつもりはありません。ただ許可期間が最長20年なので、その後はどうなるのかという不安はある。この公園の樹木はもう何十年も生きていますし、裏手にある池は古地図にも載っています。ここは本郷台地の崖の端にあたる場所で、水が自然と集まる地形なのですが、公園を最初につくったときにちゃんと池として整備されている。今回のリニューアルでも、それを受け継いでいます。
太田 歴史の積層を活かしながらつくり直しているんですね。先ほど歩いていて驚いたのは、あの岩場です。
山田 あれは新たにつくったのではなく、あえて残しているものの一つです。木も全部そのまま。公園全体をひとつのプロジェクトとして改修するからこそ、残すものと変えるものを一体で判断できる。部分的な工事だと、こうはいきません。
太田 私は自由が丘の方に住んでいて、多摩川の近くに国分寺崖線という崖がずっと続いているんです。やはり崖のあるところは水が豊かで、緑が育ちやすい。古墳もあり、すごく古い地形の特徴が残っている。この公園にも同じものを感じます。

山田 そうなんです。そういう場所は自然と緑が豊かになりますよね。
都心にこうした何も建っていない空地が存在すること自体が大事です。スケートボードのような遊びができるのも、空地があるからこそ。10年前にはそんなニーズすらなかったわけですが、将来どう使われるかわからないからこそ、何にでも使える余白のある公共空間として、しっかり残していく意味があると思います。
空間が変われば、行動も変わる
太田 構想の壮大さが伝わってきます。実際に進めるなかで、特に苦労されたことは何でしょうか。
山田 とにかく公園の数が多く、一つひとつの特徴を理解し、すべて踏まえたうえで考える必要があることです。もちろん、すべてを実際に見て回らないと仕事にならない。なので、区内をひたすら自転車で回って、ひとつずつどんな役割を持たせるか考えていきましたが、大変でしたね(笑)。
しかも、地域によって公園の大きさも密度もまったく違う。たとえば、今いるこの辺りの地域は比較的大きな公園が多いのですが、秋葉原のあたりだと小さな公園が点在しているんです。
太田 地域ごとに特徴がある、と。
山田 ええ。そうした状況を踏まえ、三つのスケールで考えるようにしていました。千代田区全体としてどういう方針にするか、地域ごとの特徴をどう活かすか、そして個々の公園をどう設計するか。この三層を同時に考えるんです。
私はもともと大学で土木系の工学を学んで、そこからランドスケープや公共空間の設計に進みました。実際に公園の図面を引いて、工事の管理もやってきた人間なので、計画だけでは見えないことが感覚としてわかる。現場で手を動かしてきた経験があるからこそ、方針の整理が机上の空論にならないよう特に目を配りました。

太田 今いるこの公園では、具体的にどのような工夫をされていますか?
山田 遊具のエリアは子どもたちが激しく動くので、走り回れるエリアとは緩やかに分けています。その結果、人工芝を敷いた広場が一番の人気スポットになりました。天然芝も検討しましたが、南側に建物があって日照が足りないことと、これだけ使われたらすぐに剝げてしまうことから人工芝にしています。
太田 子どもたちの遊び方がとてもアグレッシブですね。都心だからおとなしく遊んでいるのかと思いきや。
山田 まったくそんなことはないんです。水を汲んできて砂場に流して遊ぶ子もいるし、池で生き物を捕まえる子もいる。さっきも、落ち葉をひたすら集めている子がいましたよね。
子どもたちが自然の中に入っていけるよう、あえてフェンスをつけていない場所もあります。柵があると入れなくなるので、外側だけにつけて内側はオープンにしています。
太田 空間が変わると行動も変わるということですね。
山田 はい。行動が変わったその他の例として、九段坂公園があります。以前は鬱蒼として誰も近寄らなかったのが、整備したら大山巌の騎馬像を見に来る人が増えたんです。正直なところ、当初は銅像なんて誰も興味がないだろうと思っていたので、良い意味での驚きでした。
太田 素晴らしいですね。私自身、3年ほど行政で仕事をしていた経験からも、家でも職場でもカフェでもない「インフォーマルな公共空間」の重要性をずっと感じていました。コロナ禍を経て、その想いはさらに強くなっています。
山田 まさにそういう場所を意識して、この公園も設計しています。たとえば、背中側が壁や植栽で囲われていると、人は安心して長く座っていられる。公園の外周にそうした“背中を預けられる”場所を意識的につくったり、池のそばに屋根のある休憩スペースを設けたりしています。
太田 たしかに、公園の至るところに座れる場所がありますよね。土を留める石積みにも座れるようになっている。
山田 ええ、昼間はオフィスワーカーが並んでお弁当を食べていますし、座る場所は多いに越したことはない。土留めの石積みなど、“ベンチ”と名付けなくても腰掛けられる場所をあちこちに仕込んでいます。

太田 座る場所の話から少し視点を変えますが、公園にはこうした目に見える使われ方のほかに、都市インフラとしての役割もあるのでしょうか。
山田 あります。実はこの公園にも、見えないインフラが埋まっているんです。
千代田区では公園に雨水の貯留機能を持たせることが求められていて、この公園にも地下に貯留層があります。それだけでなく、土や芝生の部分も雨水を地面に染み込ませる役割を担っている。気候変動で降雨量が想定をはるかに超えるようになった今、雨水を下水道に流すだけでは追いつかない。街のあちこちで少しずつ水を受け止めていくしかないんです。
「千代田区だからできた」わけではない
太田 千代田区でこうした素晴らしい取り組みが実現した一方で、たとえば財源が限られた地方自治体の担当者は「うちでは同じことはできない」と感じてしまうかもしれません。千代田区だからできたことと、どこでも応用できることの線引きはどこにあるのでしょうか。
山田 線引きと言われると難しいですが、少なくとも、応用できる部分のほうがずっと多いと感じています。実際、すでにいくつかの自治体から相談をいただいていて。一番多いのは、自治体の中で同じような公園をたくさんつくるのではなく、公園ごとに機能を分担させて全体を構想したいという要望です。
公共事業には住民からの反発がつきものです。一方で、周辺の公園との関係の中で「ここはこういう役割を担う」と説明できると、理解も得やすくなる。この「機能を分担して全体をつくり上げる」考え方は、どの自治体でも応用できると思います。
太田 なるほど。推進にあたっては、やはり改革志向の首長が不可欠でしょうか。
山田 庁内の合意形成は重要ですが、首長だけでなく職員の方、色んな立場の方の熱意が大事だと感じます。
今回の千代田区の事例も、区長の意向が重要であるのは間違いないのですが、それを形にできる職員の方々がいなければ、決して良い形では実現しませんでした。設計者と行政、双方に志のある人がいたからこそ、動いたプロジェクトです。いろんな要素が重なって、実現した感覚です。
太田 人の力が大きいということですね。では、それ以外に千代田区ならではの強みがあったとすれば、何が挙げられるでしょうか。
山田 区の人口規模が小さい分、行政の意思決定が速く、いろんなことをスピーディーに試せる環境と行動力は間違いなく強みでした。
そのうえで、今回の取り組み自体、他の自治体では絶対にできないかというと、そうではないと考えています。たとえばお金の面でも、さきほどご覧いただいた「Dog Garden ~飯田橋〜」のベンチのような什器は、実はU字溝に板を載せただけのものなんです。仮設的なつくりだからこそ、ローコストでたくさんの座れる場所を生み出せました。
太田 そうだったのですね。潤沢な予算ありきの話だけではない、と。
山田 はい。しっかり予算の制約はありますし、その中で知恵を絞っています。私自身、全国で財源の限られた自治体の仕事もしていますから、お金がない場所ではどう工夫するかという引き出しもある。予算がある場所では耐久性の高い素材を使って長く残るものをつくり、限られた場所では知恵で補う。そのメリハリが大事だと考えています。
もうひとつ、他の自治体でも応用できると思うのが、公園だけにとどまらない視点です。今回は民間ビルの公開空地も含めて、区内における“外の居場所”を全部マッピングしました。住んでいる人にとっては公園か公開空地かは関係ありませんから、両方をひとつのネットワークとして捉え直す。基本方針にもその構想を盛り込んでいます。
太田 公園の枠を超えて、街全体の“居場所”として設計し直すわけですね。
実は今年度、フォーカス・イシューとしては初めて、過去の受賞作の“追跡取材”を行いました。3年前に受賞した奈良県の「まほうのだがしやチロル堂」では、受賞後に全国から多くの問い合わせが寄せられたそうです。とはいえ、仕組みの核心は「大人がちょっとずつ損する」思想にあるので、取り組みの形式だけ真似ても再現はできない。思想ごと伝えなければ、社会全体に根付かないんですね。それで今回、思想と実践の両面をまとめた本を出版し、いわばオープンソース化するという試みに踏み切ったと聞いています。
今回の千代田区の取り組みにも、チロル堂と同じような「知をひらく」発想はあるのでしょうか。
山田 大いにあります。公共の仕事ですから、やり方を閉じておく理由がない。今回のような方法が全国に広がってくれることを願っていますし、自治体向けの講演でも積極的に紹介しています。それがきっかけで、先ほども触れたように「うちでもやりたい」と自治体の方から相談をいただくこともあります。
「求められていないこと」をやる
太田 こうした知見を次の世代に伝えていき、広がりへつなげていくという意味で、もし建築・建設系の大学で講義をされるとしたら、学生にはどんなことを伝えたいですか?
山田 前提として、「公共空間のデザイン」という分野自体は、まだまだ開拓の途上にあります。この領域を専門にしている会社やプレイヤーは非常に少ないので、ぜひ飛び込む若者が増えてほしい。そのために、自分が実際の仕事を通じて感じている魅力を伝えたいですね。

それから、「求められていないことをやる」大切さも、伝えたいことのひとつです。公共の仕事には決められた仕様書があって、基本はその通りに進めることが多い。そのうえで、直接的には求められていないけれど、自分が大事だと信じたことを、一歩踏み込んで提案する。公共空間は何十年、何百年と残っていくものだからこそ、「言われたことだけやる」では足りないと思っているからです。
太田 それは大切ですね。表面だけ見ると、公共の仕事は堅くてつまらなそうに映るかもしれません。決まった手続きがあって、自由度が低そうだと。でも実際は違う、と。
山田 はい。実際、行政の方も仕様書以上のアイデアを求めているケースが少なくないんです。「こういうことをやってほしい」と書いてはあるけれど、本当はもっと良い案がないか良い手法がないかを知りたいと思っているように感じます。
その背景には、契約上、仕様書に定められた以上のことを頼みにくいという事情もあります。だからこそ、デザイナー側から主体的に踏み込む姿勢が意味を持ち、重宝されることがあると実感しています。
太田 頼まれていなくても提案する。その姿勢が、結果的に公共空間の質を引き上げていくわけですね。
民間の仕事だと、クライアントごとにひとつの敷地、ひとつの建物を手がけるのが普通ですよね。でも今回は千代田区という発注者のもとで、58の公園すべてを見渡せる立場にあった。だからこそ、たとえばある公園に遊具を集中させて別の公園は静かな散策向きにする、といった全体設計ができたわけですね。
山田 その通りです。いろんなスケールを一気に扱えるのは、行政とおこなう公共空間の仕事ならではだと思います。
スケールだけでなく、時間軸の長さもそうです。たとえばこの公園では、小学校の正門に向かって桜を1本植えました。20年もすれば立派な大木になって、新しいシンボルツリーになっていくかもしれない。未来の小学生がこの桜を思い出に、大人になっていくかもしれない。公共空間の仕事だからこそ、こういった時間のかかることへの投資も、ためらいなくできると感じます。
太田 いいですね。親子で同じ学校に通っていたら、「お父さんが卒業した頃は、この桜の木はまだ小さかったんだよ」と話す日が来るかもしれない。小学生が毎日の登下校で目にする景色がこれだというのは、すごく幸せなことだと思います。
公園が変わることは、そこに暮らす人々の日常が変わることでもある。一つひとつは小さな変化でも、それが全国の公園で同時に起きたら、この国の風景そのものが大きく変わるかもしれません。今回のような取り組みが社会の“OS”を静かに書き換え、世の中に新たな余白と更新を生み出すのだと、今日お話を聞きながら改めて実感しました。

山田 裕貴
株式会社Tetor 代表取締役
1984年愛媛県新居浜市生まれ、熊本大学卒業、東京大学大学院修了、博士(工学)。株式会社Tetor代表取締役、株式会社風景工房共同代表。公園、道路、橋梁、河川などの公共空間・土木施設を中心にデザインに携わる。「千代田区公園基本方針2025+公園リニューアル」で2025年グッドデザイン賞・金賞を受賞。その他に土木学会デザイン賞、土木学会出版文化賞JLAU Award 2024 新人賞・審査委員特別賞等を受賞。
太田 直樹
共創パートナー 株式会社 New Stories代表取締役社長
2014年まで、ボストンコンサルティングの経営メンバーとして、アジアのテクノロジーグループを統括。2015年から17年まで、総務大臣補佐官として、デジタル戦略と地方創生の政策策定に従事。2018年にNew Stories を立ち上げ、デジタルに関する専門知識と官民のネットワークを活かし、未来の価値を創造する仕事をしている。Code for Japanなど、テクノロジーを活用するコミュニティづくりを支援。
栗村 智弘
ライター/エディター
愛知県生まれ、職能は取材・執筆・編集およびプロジェクトマネジメント。一般社団法人デサイロ「Unknown Unknown」マネージャー。ほか複数の事業会社・スタートアップ・Webメディアで活動中。早稲田大学文学部卒。競技歴は野球、バスケットボール、空手、陸上、ハンドボール。猫とうさぎと神奈川県在住。
丸山 剛由
フォトグラファー
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