自分の言葉で話すことでひろがるデザインの未来「GOOD DESIGN MEETUP〜応募者と審査委員がデザインを語り合う場〜」
2025.12.05
2025年度グッドデザイン賞では、今年度の審査を振り返るとともに、参加者と審査委員、さらには参加者同士の交流の場として「GOOD DESIGN MEETUP〜応募者と審査委員がデザインを語り合う場〜」が開催されました。参加者は審査委員と開かれた対話を通じて応募のポイントを学び、審査への理解をより一層深めていました。審査委員と直接話すことで得られた気づきも多く、会場には生き生きとした交流が広がりました。

「GOOD DESIGN MEETUP」ってどんなイベント?
グッドデザイン賞の応募者・審査委員双方からの、「もっと交流する機会が欲しい」という声を受け、従来よりも交流を重視した企画として審査報告会をリニューアル。これまでは審査委員からの説明が中心でしたが、新たに参加者と審査委員たちが直接意見を交わせる時間を設けたことで、より深いコミュニケーションが生まれる場となりました。
グッドデザイン賞では、ジャンル別に編成された審査ユニットによって審査が行われます。審査委員はそれぞれの専門性を生かし、応募対象を多角的な視点から評価します。

本イベントは審査ユニットごとに開催日程が設けられ、2部構成で実施されました。
ユニット合同で行われた全8回の中から、今回は11月18日に開催された「ユニット10 家具・オフィス/公共機器設備、ユニット16 インテリア空間、ユニット20 一般向け取組・活動」の回の様子をご紹介します。
1部では、各ユニットの担当審査委員が「どのような視点で審査を行ったのか」「受賞対象の評価のポイントは何だったのか」など、審査の背景を紹介する報告セッションが行われました。

ユニット10(家具・オフィス/公共機器設備)のユニットリーダである田渕智也さんは、
「今年の応募は、家庭で使う木製の椅子から、店舗用の冷蔵庫やキャッシュレス決済端末まで、幅広いジャンルにわたった。応募点数は約300点強で、そのうち約8割が一次審査を通過し、最終的に約3割が受賞した」と参加者がイメージしやすいように具体的な数字を出しながら、
「応募は家具の割合が最も高く、素材に注目した製品が目立った。国産の針葉樹を活用したものや、持続可能な素材としてラタンを使用した製品もあった。昨年度はホームユースとオフィスユースを跨ぐ製品が多い印象だったが、今年度は使用場所や目的が明確なものが多く、特に火災報知器や消火器、防犯カメラなど、防災・防犯関連の製品が目立った」と今年度の応募傾向を振り返りました。
また、「大賞の選考では、今の日本のものづくりや社会課題にどれだけ対応できる価値があるかが重視された。循環型素材の活用の必然性や、技術継承といった観点も審査の重要なポイントとなった」と審査で重視された点が紹介されました。

ユニット16(インテリア空間)のユニットリーダである五十嵐久枝さんは、
「今年から新設されたインテリア空間のユニットでは、従来の建築ユニットとの違いや新しさが評価のポイントとなりました。見た目やコンセプトだけでなく、どのように問題解決にアプローチしているか、デザインによって課題がどのように解決されているかが重視されました」と話し、
「社会との接点や交流、将来へのビジョンがどのように満たされているかも審査ポイントとなった。個人や企業、子どもや大人を取り巻く社会課題に対してどのような視点を持ってデザインに取り組んでいるのか。
受賞対象は、社会の問題解決がしっかり実現されており、困難な背景を改善し、より良くするためにデザインが活用されていました」と受賞対象の評価のポイントを語りました。

ユニット20(一般向けの取り組み・活動)のユニットリーダである廣田尚子さんは、
「このユニットでは、家具や日用品のようなモノのデザインより、プロジェクトのようなコトのデザインを主に審査している。社会課題を解決したり、人々の生活や心を豊かにする取り組みがデザインとして認識され、質の高い応募対象が増えています。コトのデザインの応募は200件近くあり、上位賞に選ばれる率が高いです」と話し、
「仕組みのデザインが人々の生活の困難な部分を満たしていたり、これまで光の届かなかったところにデザインで光を当て、社会や心を豊かにする。多くの審査委員たちに深い感動を与えてくれるデザインが多いというのが上位の賞に入る1つの理由となっている。審査は落とすためではなく、できるだけ評価する姿勢で行われ、私たち審査委員は1つ1つのデザインに感動しながら審査している」と評価の理由と審査委員が審査に臨む考え方についても語りました。
続けて、「以前は実験的な取り組みも多かったが、今年はすでにビジネスとして成立しているものが多く、レベルが上がっていた。行政のデザインが非常にレベルが高く、上位の賞に選ばれていた。部分的な改革というより、全面的な計画を長期的に取り組み、面で解決していた。全部をやるからこそ本当の解決があるという意図を行政が示し、きちんと外に発信していた。学校や学生が舞台となるプロジェクトや障害がある人や経済的に困難な人々に向けた新しいサービスの質も大きく向上しており、未来が明るくなるようなデザインが生まれていた」と今年度の傾向を振り返りました。


スライドを用いて、グッドデザイン賞の概要や今年度の受賞対象について、視覚的にわかりやすく解説が行われました。
参加者たちは話を聞きながら、事前に配布された2025年度受賞対象の詳細や評価ポイントがまとめられた資料を読み、真剣な眼差しでメモを取る姿が印象的でした。

続く第2部では、参加者と審査委員、さらには参加者同士が自由に語り合える交流の時間が設けられ、お菓子やドリンクを持ちながら、和やかな雰囲気の中で、さまざまな意見交換と活発な対話が繰り広げられました。
誰でも気軽に参加できるこのイベントには、さまざまな年代の人が訪れ、デザインをつくる側だけでなくユーザーの方の参加もありました。
参加された方は「今は良いデザインでも、長い目で見るともっといいデザインやアプローチがあるのでは。今の社会課題と未来に向けての社会課題が見えた。そしてグッドデザイン賞を受賞した製品を購入する時の参考にもなった」と新たな気づきを得ていました。
また他の参加者は「今まで実際に審査委員の方々に直接会って話すことはなく、自分たちでデザインを分析して、考えるだけだった。このイベントに参加したことで、審査会の様子や何をポイントにデザインを評価しているのかがクリアになった。2025年度から新設された応募カテゴリーがある中で、別のカテゴリーでも挑戦できるのではないかということも考えることができた」と話し、これまで曖昧だったことが明確になり、自分たちが応募する際に役立つヒントを持ち帰っていました。

審査委員たちは参加者の方々と対話して、改めて審査会の様子や審査のポイントを振り返っていました。
ユニット10の審査委員である小林マナさんは、
「膨大なエントリーシートを読み込む中で、参加される方々の熱量は以前から強く感じていました。プロジェクトをいかに楽しんでいるのか。 誰かのためではなく、まず自分が一番楽しいと思えることをやっているデザインには力がある。ぱっと見の美しさや綺麗という理由だけでグッドデザイン賞の受賞が決まっているわけではありません。個人的な思いを原動力としているプロジェクトのエントリーシートの熱がこもった文章を見ると胸を打たれます」と語りました。

そしてユニット16のユニットリーダである五十嵐久枝さんは、
「受賞を目指す参加者からは、どういうことが大事なのか、どのユニットに応募したら良いのか分からないという相談もあった。 また、エントリーシートの書き方は重要で、応募したデザインは何をしているのかをこちらが読み解けるようにきちんと書くというのが、受賞の一つのコツであるとアドバイスしました。今回、参加者の方の話を聞いていると、グッドデザイン賞の内容について細かい疑問点がいくつもあった」と参加者から浮かび上がってくる疑問に真摯に向き合っていました。
各ユニットごとの2025年度の審査の総評はグッドデザイン賞公式サイトに掲載されています。今のデザインの傾向や社会の動き、これからのデザインの可能性について知ることができます。ぜひご覧ください!
朝倉千恵子
執筆
書店で働きながら本や映像を制作する。TABF2024に参加。チェルフィッチュ『三月の5日間リクリエーション』や『リビングルームのメタモルフォーシス』に参加するなど俳優としても活動している。
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